「南京事件」を調査せよ――想像をはるかに凌駕する真実

レビュー

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「南京事件」を調査せよ

『「南京事件」を調査せよ』

著者
清水 潔 [著]
出版社
文藝春秋
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784163905143
発売日
2016/08/25
価格
1,620円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

伝説の記者の「調査報道」が明らかにする「南京事件」

[レビュアー] 東えりか(書評家)

 二〇一五年十月四日、私はNNNドキュメント「南京事件 兵士たちの遺言」というテレビ番組を五十五分間、息を詰めて観ていた。それほど衝撃的な内容だったのだ。

『桶川ストーカー事件─遺言』『殺人犯はそこにいる─隠蔽された北関東連続幼女誘拐殺人事件』など衝撃的なノンフィクションを著してきた日本テレビ報道局記者、清水潔が取材した番組だということは知っていたし、それならば、戦後七十周年の記念番組としてかなり特殊なものになるということも想像がついた。だが彼が東奔西走して獲得した南京事件の真実は、その想像をはるかに凌駕していた。

「南京で虐殺などなかった」という人がいる。もしかすると年を経るごとにその人数は増えているかもしれない。だが、清水が一次資料、つまり事件に関わった人たちの日記や手記、あるいは市井の研究者が取材したインタビューテープなどから解き明かしたことは、信じられない、信じたくないことばかりだったのだ。

 一九三七年、日中戦争において日本軍が当時の首都・南京を攻略した際、略奪や強姦、放火を行い、多数の民間人や捕虜まで無差別に殺害したとも言われる南京事件。「大虐殺だった」「そうではない」の論争が繰り広げられ、犠牲者の数は数人から三十万人とあまりにも差がある。戦争の記憶が薄れ、「そもそも南京事件などなかった」と言い出す人々まで現れ、真実はどんどん歪曲され分からなくなっていった。

 清水は現地に飛び、地形を確認し、兵士たちの残した文章に当てはめていく。捕虜たちはどのように集められ、どのように殺されたのか。清水が時系列を追って書き上げた事件の経緯の凄まじさは読むのが辛いほどだ。

 番組放送後も引き続き調査は進められ、さらに新たな真実が見つかっている。戦争は被害者も加害者も同じように生む。そのことを心の底から感じた一冊であった。

新潮社 週刊新潮
2016年10月20日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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