テクストから立ち上げる新たな漱石像
[レビュアー] 図書新聞
今年は漱石没後100年であり、来年には生誕150年を迎えるという。だが、本書はその偉大なる国民作家・夏目漱石の神話を解体するものだ。「入門」と名付けられてはいるものの、漱石文学を読み解く上で重要なテーマとなりうる「家族」や「夫婦」などを中心に論じ、その内容の濃さは漱石の小説同様、幅広い読者を想定したつくりとなっている。特に男女の恋愛、夫婦愛に関する幅広い読解と時代背景の詳細な解説は、そのまま日本の近代国家への歩みや個人として生きなくてはならない苦しみ、当時の風俗史へとつながっていて、非常に面白く勉強になる。本書を手引きとして、新たに、あるいは改めて漱石文学を堪能してみてはどうだろうか。まっさらなテクストを思わせるシンプルな装幀が目印だ。(9・20刊、三〇四頁・本体八三〇円・河出文庫)