弱者の側に立つということ

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

いのちの旅 : 「水俣学」への軌跡

『いのちの旅 : 「水俣学」への軌跡』

著者
原田, 正純, 1934-2012
出版社
岩波書店
ISBN
9784006032982
価格
946円(税込)

書籍情報:openBD

弱者の側に立つということ

[レビュアー] 図書新聞

 水俣病の現場に深く関わってきた医師・原田正純による新聞連載をまとめたエッセイ集。熊本の水俣病をはじめ、深刻な公害を抱える世界各地を歩き、思索した記録である。一篇が三頁程度でとても読みやすいのだが、環境よりも利便性と収益性を優先した人間の負の側面を白日のもとに晒す内容は、著者の静かなる怒りに満ちている。エドワード・サイードの言葉を引きながら、「弱者の側に立つことが専門家を育てる」と言い、学問の在り方を厳しく問うている。「素人の指摘が専門家の常識よりも正しかった」こと、「差別のあるところに公害がおこる」ことを実体験した原田が提唱する「水俣学」の意味は、本書により問題の“当事者性”に目覚めた読者にとっては、自ずと理解できるはずだ。(4・15刊、二二四頁・本体八六〇円・岩波現代文庫)

図書新聞
2016年10月8日号(3273号) 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

図書新聞

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク