『青い海の宇宙港 春夏篇・秋冬篇』 川端裕人著

レビュー

4
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青い海の宇宙港 春夏篇

『青い海の宇宙港 春夏篇』

著者
川端 裕人 [著]
出版社
早川書房
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784152096296
発売日
2016/07/22
価格
1,512円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

青い海の宇宙港 秋冬篇

『青い海の宇宙港 秋冬篇』

著者
川端 裕人 [著]
出版社
早川書房
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784152096302
発売日
2016/08/05
価格
1,620円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『青い海の宇宙港 春夏篇・秋冬篇』 川端裕人著

[レビュアー] 稲泉連(ノンフィクションライター)

ロケット少年の四季

 足元の自然を見たその目で、地球の丸みを感じられるくらいに空を仰ぎたくなる。頁(ページ)をめくりながら、そんな気持ちを何度も抱いた。

 物語の舞台である「多根島」は、種子島を模したロケット発射場のある架空の島だ。そこに山村留学の「宇宙遊学生」としてやってきた小学六年生が、“宇宙探検隊”を結成してロケットの打ち上げを試みた一年間が描かれる。

 生き物や自然が大好きな駆(かける)、宇宙工学にやけに詳しい周太、島育ちの希実とフランス人宇宙飛行士を母に持つ萌奈美(もなみ)。

 探検隊が巻き起こす騒動に、島に生きる個性的な大人たちは翻弄されたり、力を貸したり。国の宇宙開発機関に勤める職員、里親や教師、町工場の頑固オヤジなど、様々な人生の事情を抱える彼ら自身が、子供を見守ることでそれぞれ変化していく姿がいい。

 また、私がとりわけ胸打たれたのは、神々が宿る島の深い自然に惹(ひ)かれつつ、視線を空へも向け始める駆の成長の描かれ方だった。

 マングローブの森に息吹(いぶ)く無数の小さな生き物、ウミガメの産卵、田植えや「鯉くみ」と呼ばれる島の祭事。そうした土地の営みと宇宙とが実はひと連なりのものであるという感覚を、射場が身近にある日々を通して駆は抱く。そして青い海の水面をそっと覗(のぞ)き込むことが、彼の中で遠い宇宙を見上げることとつながるとき、それまで見えていた世界が鮮やかに押し広げられるのだ。

 「春夏篇(へん)」でロケット競技会に出場した駆たちは、「秋冬篇」でさらなる計画を立てる。

 物語の終盤、彼らが町を巻き込んで作り上げた宇宙探査機の未来を想像し、その体験のかけがえのなさに憧憬を覚えた。そこに投げかけられたのは、民間企業がロケットを飛ばすようになったこの時代、宇宙開発の現場には今後このような光景すら生み出され得るのだ、という著者の熱いメッセージでもあったに違いない。

 ◇かわばた・ひろと=1964年、兵庫県生まれ。日本テレビ記者(科学技術庁、気象庁など担当)を経て小説家に。

 早川書房 1400円、1500円

読売新聞
2016年10月16日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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