『70歳の日記』 メイ・サートン著

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70歳の日記

『70歳の日記』

著者
メイ・サートン [著]/幾島幸子 [訳]
出版社
みすず書房
ジャンル
文学/外国文学、その他
ISBN
9784622078623
発売日
2016/07/26
価格
3,672円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『70歳の日記』 メイ・サートン著

[レビュアー] 長島有里枝(写真家)

生を楽しみ尽くす

 十年ほど前に『独り居の日記』を読んでサートンの大ファンになったが、他の日記作品は軒並み絶版になっていたので、まずは手に入る小説をすべて読んだ。知っているのは、彼女が幼少の頃、両親とともにアメリカに亡命したユダヤ系ヨーロッパ人であるということ、熱心なキリスト教信者であること、そしてレズビアンの作家を主題にした小説を書いたせいで大学の職を追われ、田舎に居を移したことなどで、多くはない。『回復まで』の再版を待っている間に、本書が翻訳刊行された。

 『70歳の日記』はサートンの誕生日から始まって、七十歳最後の日で終わる。『独り居の日記』のときに住んでいた田舎の家を引き払い、彼女はいまや、さらに奥まったメイン州の海辺の家に住んでいる。アメリカ東海岸のはっきりした気候と、激しいぶん強烈に美しい自然、そこで暮らす野生の動植物の描写は、まるでサートンの自画像のようだ。誕生日を祝ってくれる友人たちに感謝するいっぽう、そんな時間さえ作品に費やしたいと焦るサートンの繊細で難しい気質は、彼女が暮らすメインの自然ととてもよく似ているように思う。

 『独り居の日記』の頃から変わらず、サートンは生きる目的である創作と、生きるために避けられない日々の雑事との拮抗(きっこう)に悩み、その心情を率直な筆致で、延々と日記に書き綴(つづ)っている。それらはまさにわたし自身の悩みであり、苦しみもがきながらも、生活も創作も決して手放さない姿に勇気づけられる。激しい気性が齢(よわい)とともに和らぎ、生き易(やす)くなったと喜ぶ姿には、このときの彼女と同じ年の母を重ねてしまう。

 若く強いことが良しとされるアメリカ社会において、彼女の存在は特別な意味を持つ。認知症を患ったかつての恋人や、親友の死と向き合い、自らの老いも受け入れながら、ただ楽しく生きるのではなく、生きることを楽しみ尽くす。その姿に親近感と安堵(あんど)を覚えるはずだ。幾島幸子訳。

 ◇May Sarton=1912~95年。作家、詩人、エッセイスト。日記や自伝的エッセーも多い。

 みすず書房 3400円

読売新聞
2016年10月16日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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