『自由の条件』 猪木武徳著

レビュー

3
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自由の条件

『自由の条件』

著者
猪木 武徳 [著]
出版社
ミネルヴァ書房
ジャンル
社会科学/経済・財政・統計
ISBN
9784623077922
発売日
2016/09/20
価格
3,240円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『自由の条件』 猪木武徳著

[レビュアー] 橋本五郎(読売新聞社特別編集委員)

古典から何を学ぶか

 古典の古典たるゆえんは、時空を超えて真理に光を当て、それぞれの時代に生きる人々に限りなき指針を与えてくれるところにある。J・S・ミルが「政治の科学的研究の新時代が始まった」と評したトクヴィル『アメリカのデモクラシー』(第一巻は1835年、第二巻は1840年)はまさにそうした古典だろう。

 著者はトクヴィルを徹底的に読み込むことによって「自由」とは何かを考える。私たちはデモクラシーの中核をなす「自由」と「平等」が両立しうるものと考えがちである。しかし、平等原理が限りなく拡大すれば、「独裁」や「多数の専制」の危機に曝(さら)され、自由は脅かされることをトクヴィルは見抜いていた。

 この弊害をどう食い止めるか。トクヴィルはその装置を米国デモクラシーに見た。地方自治の徹底、陪審制、結社によって、共同の利益、公共精神を涵養(かんよう)しているのだ。それは日本で20年来議論になっている地方分権、裁判員制度、NPOとまったく重なると著者はみる。

 「平等」の持つパラドックスもトクヴィルは指摘している。「民主国の軍隊のすべての野心家は切実に戦争を欲する」。なぜならすべての兵士に士官になる道が開かれ、出世欲が広がり野心が大きくなるからだ。その姿を著者は、戦前の日本陸軍でも平等な出世競争が始まると好戦的な軍人が主流を占め始めたことに見る。

 書評ではほんの少ししか紹介できないのが残念だが、トクヴィルの慧眼(けいがん)は現代デモクラシーの問題点を的確に予見していたのである。猪木さんの本のすごさは、トクヴィルをアダム・スミスやミル、福澤諭吉との関係も含めて詳細に論じているだけではない。プラトンやアリストテレスからモンテスキュー、マルクス、ケインズに至るまで、その思想の根幹を押さえて敷衍(ふえん)してくれていることである。古典はどう読むべきか。古典から私たちは何を学ぶべきか。これほどの教科書はないと言っていい。

 ◇いのき・たけのり=1945年生まれ。大阪大、国際日本文化研究センターの名誉教授。著書に『自由と秩序』など。

 ミネルヴァ書房 3000円

読売新聞
2016年10月16日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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