『絶滅鳥ドードーを追い求めた男』 村上紀史郎著

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絶滅鳥ドードーを追い求めた男

『絶滅鳥ドードーを追い求めた男』

著者
村上紀史郎 [著]
出版社
藤原書店
ISBN
9784865780819
発売日
2016/07/26
価格
3,888円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『絶滅鳥ドードーを追い求めた男』 村上紀史郎著

[レビュアー] 牧原出(政治学者・東京大教授)

才気溢れる奇人

 豊臣秀吉の一代記で知られる武将蜂須賀小六の子孫で、江戸時代は徳島藩主、明治維新後は華族であった蜂須賀家。18代目の当主が正氏(まさうじ)である。鳥への学術的関心を持ち続けるが、空に憧れたのか自家用機を乗り回し、フィリピンでは伝説の有尾人を、アフリカでは野生ゴリラを追い求めてジャングルを探検。逸話に事欠かない才気溢(あふ)れる奇人である。

 だが、正氏のもう一面は「不良華族」であった。大正期の日本が好景気に沸き立った頃、多くの華族の子弟がヨーロッパで派手な生活を繰り広げた。醜聞すれすれの奔放な若者たちの一人が正氏であった。帰国後も女性スキャンダルや、諫(いさ)める元家臣と絶縁し、宮内省から注意を受けるなど、新聞ネタに事欠かなかった。

 草創期の鳥類学では、珍種を集め、飼育するには莫大(ばくだい)な資産が必要であり、学を支えたのは、華族出身の学者たちであった。ヨーロッパ滞在年の長い正氏の場合、やはり鳥の愛好家であったイギリスのロスチャイルド男爵やブルガリア国王と親交を結び、自身は絶滅鳥ドードーの資料を徹底的に収集し、論文で博士号を取得した。得意の英語を生かして、敗戦後はGHQの改革者オースティンと親交を結び、日本の鳥獣行政の民主化・近代化にも力を尽くした。

 正氏は熱海に別邸を構え、猿や鳥を放ち、ホールには剥製を飾っていた。この不思議な洋館について、著者は雰囲気を活写しているが、どうにもアンニュイな気分がたちこめている。ケンブリッジ大学で学んだ正氏は英米との戦争に臨む窮屈な日本社会になじめなかった。逃げ場は、好きな動物に囲まれた邸宅であった。

 同じくケンブリッジ大学に学んだ白洲次郎は、戦中の雌伏の時期に畑を耕し、吉田健一は英文学に打ち込んだものの出征を余儀なくされた。戦後、白洲が政治や経営に、吉田が文芸批評で活躍したのと比べると、正氏はどこか燃え尽きたような感がある。時代は奇人であり才人でもあった人物を翻弄したのだろうか。

 ◇むらかみ・きみお=1947年生まれ。編集者、ライター。著書に『「バロン・サツマ」と呼ばれた男』など。

 藤原書店 3600円

読売新聞
2016年10月16日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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