箸が持つ 歴史と文化の面白さ

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箸はすごい

『箸はすごい』

著者
エドワード・ワン [著]/仙名 紀 [訳]
出版社
柏書房
ISBN
9784760147120
発売日
2016/06/01
価格
2,376円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

箸が持つ 歴史と文化の面白さ

[レビュアー] 山村杳樹(ライター)

 現在、世界人口の約五分の一、約十五億人が箸を常用している。他は中東、南方アジア、東南アジアの一部に多い「手食派」と、ヨーロッパを中心とした「フォーク・ナイフ派」に分類される。古代中国では紀元前五千年には箸が使われていたというから、箸文化は七千年の歴史を閲したことになる。箸が匙に代わり食文化の主役となるのは漢時代。小麦の製粉技術が発達し、餅や麺、餃子などが登場したことで、箸の普及を伴う「食文化革命」が進行した。上海生まれの歴史学者である著者は、本書で箸の歴史を辿り、箸使用の有利不利、社会的意味合い、文化における多面的機能などを検討していく。箸を日本に初めて紹介したのは推古天皇が遣隋使として派遣した小野妹子とされている。八世紀には、箸の使用が上流階級のみならず庶民に至るまで行き渡った。東大寺近くで二百膳あまりのヒノキの箸が発掘されたが、著者はこれらの箸は当時の建設労働者が捨てた物で、世界で最初の「使い捨て箸」の元祖にあたると指摘する。また、神道の影響を受け、「自然(木霊)と忌憚なく対話できる」白木の箸が、最も格が高いものと位置づけられ、従って天皇は白木の箸を用いるのだとされる。正月に使う祝い箸が中央が膨らみ両端が細く尖っているのは神と共用するためで、ヤナギの木が好まれるのは、ヤナギの芽吹きが他の樹木より早く、その生命力にあやかりたいため。また、使い捨てられるのは、白木の箸には人の霊が乗り移り洗っても落ちないから、という説明は興味深い。さらに、日本では「箸」と「橋」が同音であることから、箸には此岸と彼岸を結ぶ霊的な力があると信じられていることや、「陰箸」の風習にも言及されている。箸文化圏の中では朝鮮半島が特異で、金属製の匙と箸の併用が好まれているのは彼らが金属を好むからという指摘も面白い。何気なく使っている箸が持つ、歴史と文化に、改めて気づかされる一冊だ。

新潮社 新潮45
2016年10月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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