『バカざんまい』
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新ジャンル誕生!練達の話芸に酔う
[レビュアー] 林操(コラムニスト)
いや、笑わせてもらいました。新書の読書体験と言えば普通、知る気づく学ぶとか、叱られる煽られる騙されるとか。ところが、『バカざんまい』の場合は笑う、そして、すっきりする。
そういう希有な読後感の理由を考えて思い当たるのは、馬鹿を馬鹿として扱ってくれることのありがたさ。桃井かおりのCMの昔から、世のなか馬鹿ばっかりでみんな疲れてるとして、今じゃ馬鹿を馬鹿と呼ぶ自由まで失われつつある。
中川淳一郎には『ウェブはバカと暇人のもの』でも大笑いさせられたわけですが、対象分野をネットから新聞TV、芸能スポーツ、政治行政にまで拡げて、週刊新潮の連載で続けてきた馬鹿の認定および是正活動の成果がこの新書。
馬鹿を馬鹿と呼ばせない馬鹿の増えるなかで世間にツッコミを入れられるのは軸足が定まってこそで、著者の強みは頭でっかちではない常識。カネは大事、自分で働け、間違ったら謝れ、その他いろいろ、社会人としての生き方の基礎の基礎が重んじられてるゆえ、馬鹿認定の説得力が強い。
一方で、自分自身のことも酔っぱらい、それも「化学的製法大量醸造効率重視ビール」マニアとして笑いのめしたりして、上から目線の説教臭さとは無縁。サッカーW杯の“ニッポン勝てる!”虚偽報道をクサし、一億総活躍担当相なる珍職をイジる話芸は、言いっぱなしの放談ではなく、現実を見る目まで変えてくれる練達の漫談、触れてみないのはもったいない。