『永遠の1/2』
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明文堂書店石川松任店「青年の日常を瓜二つの顔をした男が掻き乱していく」【書店員レビュー】
[レビュアー] 明文堂書店石川松任店(書店員)
《失業したとたんにツキがまわってきた。》女性関係も競輪も、失業とともにうまく行き始めていた。そんな風に考えていた《ぼく》はその頃から突然、頻繁に人違いに遭うようになり、自分と同じ顔の男が周囲にいることを知る。そしてその人違いが原因で、彼の日常は慌ただしいものになっていく。
ギャンブルと野球が大好きな青年《田村宏》が主人公である。この男、お世辞にも誠実とは言えないし、身勝手な行動や言動も多く、正直に言うと(個人的には)腹立たしくなることもあるのだが、何故か嫌いになれないところがある。強がりや虚勢のようなものが感じられて、憎めないのである。そんな青年の日常を瓜二つの顔をした男が掻き乱していくストーリーは軽快だが、不穏さも持ち合わせている。謎が紐解かれていくことにより、瓜二つの男の人生が立ち上がる展開はとても愉しく、そしてほんのりと切ない。余韻が長く残る作品です(そしてさらにあとがきまで面白い)。
ちなみに本書のミステリ部分が愉しかったという人には、著者には『身の上話』というミステリの傑作もあるので、そちらも是非、おすすめです。