“昆虫捜査”の異色ミステリー 犬が運んできたミイラの謎

レビュー

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潮騒のアニマ 法医昆虫学捜査官

『潮騒のアニマ 法医昆虫学捜査官』

著者
川瀬 七緒 [著]
出版社
講談社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784062203081
発売日
2016/10/26
価格
1,620円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

女子学生然とした昆虫博士が“秋のミステリー”を牽引する!

[レビュアー] 香山二三郎(コラムニスト)

 ミステリーファンの秋の楽しみといえば、毎年この時季に刊行されるシリーズもの。ジェフリー・ディーヴァーの諸作はその代表格で、今年も“人間嘘発見器”ことキャサリン・ダンス捜査官ものの『煽動者』が出た。一方日本ものでその地位を固めつつあるのが川瀬七緒の「法医昆虫学捜査官」シリーズで、本書はその第五作に当たる。

 主人公は警視庁に協力している特別捜査員の赤堀涼子博士とその相棒役、警視庁捜査一課の岩楯裕也。女性科学者というと知的でクール、ちょっと厳めしい感じだけど、赤堀センセ、見た目は小柄で童顔、昆虫採集に来た無邪気な女学生然としている。だがその実、虫のことなら何でもこい、怖いもの知らずの女傑なのだ。切れ者刑事の岩楯も何かと振り回されがちだが、その行動力と学識、押しの強さには一目置いている。

 今回の事件は伊豆七島の新島から二〇キロ沖合にある神ノ出島で、ミイラ化した若い女性の遺体が発見された一件。警視庁は自殺として処理したものの、マスコミやネットで騒がれ、遺族からも殺人だと抗議されたことから、岩楯が捜査に遣わされる羽目に。岩楯は新島南署の兵藤刑事と組んで聞き込みに回るが重要な証言は得られず、赤堀もいつもなら遺体に群がってくる“虫の声”が聞こえず、様子がおかしいという。遺体は島で放し飼いになっているハスキー犬のトシゾーがどこからか運んできたらしいが、死亡現場も杳(よう)としてつかめない。

 昆虫が題材ということで、これまでも山間や水際が舞台になることが多かったが、今回はミステリーの定番・離島。島は野良猫を売りに観光地化しているが、古い習俗や閉鎖的空気も根強く残っており、横溝正史作品でもお馴染み、不気味な婆キャラまで登場する。島の自然も重要な要素で、洞窟探検あり、アウトドア小説としての読み応えも充分だ。一方、死んだ娘のほうも職場や家庭で孤立しており、人物像がなかなか判然としない。何故わざわざ島で死んだのか、謎は深まるばかり。

 日和見で潔癖症の兵藤を始め、ハイエナ・ジャーナリスト、死者が勤めていた幼稚園の邪悪な女教諭、茫洋とした島の獣医師、そして事件の鍵を握るトシゾー(!?)と、脇役にもアクの強いキャラを配し、読者を逸らさない。推理、サスペンス、アクションと三拍子揃った快作で、もちろん本シリーズはこれが初めてというかたも大丈夫。グロい場面もあるけど、一気読み請け合いだ。

新潮社 週刊新潮
2016年11月3日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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