『歌の子詩の子、折口信夫』 持田叙子著

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歌の子詩の子、折口信夫

『歌の子詩の子、折口信夫』

著者
持田叙子 [著]
出版社
幻戯書房
ISBN
9784864881074
発売日
2016/09/21
価格
3,024円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『歌の子詩の子、折口信夫』 持田叙子著

[レビュアー] 松山巖(評論家・作家)

文学革命の熱 消えず

 折口信夫を思うとき、多くの人は彼の作品よりも彼が同性愛者故に、暗い情念の世界に孤立した知の巨人と考えるのではあるまいか。

 ところが著者は、実にわかり易(やす)いこなれた言葉で、折口は生来、明るく人付き合いの良い町育ちの子だったことから始める。明治二十年、大阪の生薬屋に生まれた彼は、少年時代を明治三十年代に勃興する浪漫主義の只(ただ)中を生きた。子どもの頃から西行や百人一首に親しみ、万葉集を愛読していた彼は、与謝野鉄幹や晶子の短歌に心酔し、彼らが発表する女歌から両性具有性を感じとる。更に鉄幹、晶子と交流のある大阪の金尾文淵堂から出版された薄田泣菫の『暮笛集』にも自分の小遣いで買うほど憧れたのだ。

 折口はこの時代に生じた文学の様々な革命、柳田国男の民俗学や岩野泡鳴の『神秘的半獣主義』に共感し、連綿と続く民俗の流れや性欲の肯定に共鳴し、自身も文学の革命の子であろうとした。だから彼は、文学を〈あそび〉とし自ら文学を棄(す)てた森鴎外が、知識によりこの革命の芽を摘むことは、若き日には許せず、反論を書いた。同時に彼の文学への革命の熱は生涯消えず、大正期の〈新感覚派〉の作家にも、太平洋戦争後の新しい〈第一次戦後文学派〉の作家にも、彼は期待し激励の文も綴(つづ)っている。

 著者は通常のように折口の生涯を経年的には描かない。折口自身が若き日の思いを生涯忘れず、その後の研究や作品の骨格としたためだ。

 だから著者は、折口が昭和十八年に出版した小説『死者の書』に自註(じちゅう)「山越しの阿弥陀像の画因」を付けた意味を明らかにして本書を締め括(くく)る。折口の自伝的短篇(たんぺん)「口ぶえ」が、画の作者である江戸末期の冷泉為恭(れいぜいためちか)の体験と重なり、彼が為恭に強く共感したためだったと。

 本書は実にユニークな折口の作品論であり、昭和二十八年に没するまでの彼の評伝でもある。しかし同時に、本書は万葉から近代まで連綿と続く歌と詩のわかり易い案内書にもなった。

 ◇もちだ・のぶこ=1959年、東京生まれ。国学院大兼任講師(近代日本文学)。著書に『荷風へ、ようこそ』など。

 幻戯書房 2800円

読売新聞
2016年10月23日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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