『誰からも好かれる NHKの話し方』
- 著者
- 一般財団法人NHK放送研修センター・日本語センター [著]
- 出版社
- KADOKAWA
- ジャンル
- 社会科学/社会科学総記
- ISBN
- 9784046016768
- 発売日
- 2016/09/16
- 価格
- 1,540円(税込)
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NHKアナウンサーから学ぶ「聞き方」の極意
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
コミュニケーションは相手がいて、初めて成立します。どんなに声が大きく、話がロジカルで、自分のPRを堂々とできたとしても、それが相手から「聞いてみたいな」と思ってもらえなければ、単なる自己満足に過ぎません。
実は「うまい話し方」と、「聞いてもらえる話し方」は全く違うものなのです。(「はじめに」より)
勤続20年以上のNHKアナウンサーにインタビューし、話し方のコツをまとめた『誰からも好かれる NHKの話し方』(一般財団法人NHK放送研修センター・日本語センター著、KADOKAWA)、その冒頭にはこう書かれています。
お年寄りから子どもたちまでを対象とした公共放送だからこそ、うまく話すことよりも「聞いてもらう」ことに力を注ぐのがNHKアナウンサーの役割。採用に際しても、話がうまく自分を売り込もうとする人より、「どうしても伝えなければならない情報」の伝達に使命感を持ち、そのために奉仕できる人を重視しているのだそうです。
事実、アナウンサーとしてNHKに入り、最初に教えられるのも「主役はアナウンサーではない」ということなのだとか。その仕事は「情報」を正確にわかりやすく伝えること、ゲストやタレントの魅力やパフォーマンスを最大限に引き出し、伝えること。そしてそれは、話のうまさとは関係ないというのです。
本書のテーマである誰からも好かれる話し方とは、「自分の言いたいこと」を効率よく伝えることではありません。「相手のほしい情報を的確に届けること」です。(「はじめに」より)
客観性が求められるわけで、だとすれはそのメソッドは、アナウンサー以外のビジネスパーソンでも応用できそうです。そんな本書のなかからきょうは、「聞き方」に焦点を当てた第3章「NHKアナウンサーは『聞く』が9割」に注目してみたいと思います。
自分が聞きたいことではなく、「相手が言いたいこと」を聞く
ご存知のとおり、アナウンサーの仕事は大きく次の3つに分類することが可能です。
・話す
・読む
・聞く
(80ページより)
「話す」は、リポートや司会進行などの仕事。ラジオの仕事も「話す」がメインです。「読む」は、ニュースの原稿を読むことやナレーションなどの仕事。特に難しいのが、ニュースを「話すように読む」ことだといいます。そして「聞く」に該当するのは、インタビューや取材など。数ある仕事のなかでも、アナウンサーが「格段にむずかしい」と口をそろえるのがインタビューなのだそうです。なぜなら、相手と上手に距離感を保ちつつ、第三者(視聴者)が理解できるように聞き出していかなければならないから。
また、話すことは自分の知識の範囲内ですが、聞く場合には自分の知識を超えた内容を受け止めなければならず、想像力も必要になります。先入観があれば間違った捉え方をしてしまうことになるため、脳細胞を総動員する必要があるというのです。そこでNHKの研修では、次のような演習問題を出し、聞くことの難しさを実感してもらうのだといいます。
【演習】
これから言う内容をメモをとらずに聞いてください。「白と青の縦じまのシャツに、オレンジ色のVネックセーターを着て、紺色の半ズボンをはいた、3歳くらいの男の子を、迷子としてお預かりしていますので、お心当たりの方は、公園事務所までご連絡ください」
(82ページより)
迷子のお知らせであることはすぐにわかりますが、迷子には「探している場合」と「預かっている場合」の2種類があります。この演習問題の場合、迷子を預かっているケースだということは文章で読めば判断が可能です。
ところがヒアリングだけで判断する場合は決して簡単ではなく、実際、研修では2~3割が「迷子を探している」と答えるのだそうです。聞いて正しく理解するのは、それくらい難しいということ。人は話を自分勝手に解釈しながら聞く傾向があり、特に、話の内容を追っていけなくなると、自分の解釈をつけ加えながら、あたかも聞いた話のように理解しているというのです。
だからこそ忘れるべきでないのは、「こちらが言いたいことを聞き出すのではなく、相手が言いたいことを聞かなければいけない」ということ。そして、それは普段の会話でも同じ。人はつい自分の言いたいこと、聞きたいことを優先しがち。相手の話を「うんうん」と聞いているふりをして、スルーした挙句に自分の話をはじめてしまったりするものです。あるいは先入観を持って話を聞いたり、「こうだろう」と決め付けたりすることも。しかしそれでは、相手の考えや言いたいことを理解できなくて当然です。
そこで、まずは相手の話を、五感を研ぎ澄まして聞くことが大切だと著者はいいます。質問項目を書いたメモや事前に考えていた段取りをいったん白紙に戻し、目の前の相手に意識を集中させることが大切だということ。そうすれば、相手の表情がパッと変わったり、声のトーンが急に変わったりすることにも、いいキーワードにも気づけるわけです。
そうした変化に気づけば、そのテーマを質問し、内容を深めることができるということです。日常の会話でも同じで、相手は言いたいことを引き出せれば会話は盛り上がりますし、相手からも「よくぞ聞いてくれた」と好感を持ってもらえるわけです。(80ページより)
すべてをメモにとらないーー固有名詞。数字、キーワードだけ
話を聞きながらメモをとることは、もちろん大切。正確に、的確に聞く助けになってくれるので、NHKアナウンサーも取材のときには必ずメモをとるそうです。ところが問題は、話し手が、必ずしも大事なことから話してくれるわけではないということ。ましてや、わかりやすく順序立てて話してくれるとも限りません
そこで重要になるのは、1.なんの話か? 2.大事なことはなにか? の2つ。メモをとっていると、つい書くことに必死になるあまり、「木を見て森を見ず」の状態になってしまいがち。しかし、この2つを意識して押さえておけば、大枠を間違えることはないといいます。
なお、メモをとる際は、すべてを文字にするのは不可能。そこで、名詞などキーワードとなる言葉を書き残すといいそうです。また、その際には記号や略語などを活用すると便利。たとえば「警察」だとしたら、ひらがなの「け」を丸で囲めば描くスピードがアップするというわけです。
どの話が重要なのか、すぐにはわからないケースもありますが、聞いている最中に「大事なポイントだ」と思ったら、丸囲みをして目印をつけておくといいとか。また、項目ごとに仕分けしながらメモをし、小見出しをつけておければよりよいそうです。なお数字や固有名詞など正確性が求められる内容は、正確にメモしておくことが大切。(95ページより)
無口な人にも話したくなる「スイッチ」がある
人はどうしても、自分の聞きたいことを聞いてみたくなるもの。しかし、それは必ずしも相手が話したいことと一致するとは限りません。こちらが根掘り葉掘り聞いている一方で、相手が「こんな話はしたくない」「本当は違う話をしたいのに」と感じている可能性もあるわけです。しかし、そのようなコミュニケーションを続けていても、会話は盛り上がりませんし、相手の本音を聞くこともできないはず。
しかしそんなとき、「相手が話したくなるスイッチ」を押すことができれば、話の密度はぐんと濃くなるといいます。そこで意味を持つのは、相手が興味を持っている話題や、話したい内容を意識して探すこと。いきなり本題から入っても、初対面の相手に素直に話してくれるとは限らないわけです。
だからそんなときは、相手が話したくなるようなポイントを探すべき。「これを聞けばいい」という正解はないけれども、相手や状況をよく観察していれば、フックになるものが見つかるかもしれないわけです。
お互いの共通点が、距離を縮めるスイッチになることもあるといいます。初対面の相手とふるさとや出身校が一緒だったりすると、急に親近感がわいて、距離が縮んだりしますが、それがいい例。そのようなことをきっかけとして、意識的に相手との距離を縮めるのも会話のテクニックのひとつだということです。
ちなみに、いちばん使い勝手がいいのは、「ふるさとは何県ですか?」という質問だとか。あるいはふるさとでなくとも、「昔、住んでいたことがある」「旅行で行ったことがある」「○○というスポットが人気ですよね」と行ったようなつながりが見つかれば、その話をきっかけに会話が転がっていく可能性があるといいます。(101ページより)
NHKアナウンサーの実体験をベースにしているだけあって、全体を通してとても実践的な内容。日常のコミュニケーションに活かせることが少なくないだけに、ビジネスパーソンに役立つ1冊だといえそうです。
(印南敦史)