さびしすぎてレズ風俗に――28歳の体験漫画

レビュー

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想像もつかぬプレッシャーと生きる若者のリアル

[レビュアー] 都築響一(編集者)

 18歳で普通に高校を卒業したあと大学を半年で中退、鬱と摂食障害になってしまい、身長167センチなのに体重は38キロしかなくて、からだもこころもどんどんボロボロになって、アルバイトすら続けられず、自傷行為を繰り返しても死ぬことすらできず、どこにも居場所を見つけられず、そうして「誰かと付き合った経験も、性的な経験も、ついでに社会人経験もないまま28歳になった私」が、「大切にされたい自分」ではなく「大切にしたい自分」を探して、ネットで見つけたレズビアン風俗に(客として)飛び込むという体験漫画である。

『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』という書名を見て、週刊新潮読者の何人が興味を持ってくれるのかまったくわからないけれど、これは僕らオヤジ世代には想像もつかない、強度のプレッシャーの中で生きていくことを強いられる現代の若者の多くが、すんなり共感できるであろう優れたドキュメンタリーであり、長い時間をかけて自分を解放していく物語でもある。この本ではレズ風俗が世界と能動的に関わっていくきっかけになっているけれど、それがあるひとには道ばたで歌うことだったり、貧乏旅行だったり、仕方なく始めた介護の現場で出会うお年寄りだったりするのだろう。

 同人誌みたいな体裁だけれど、中身は素晴らしく重い。これが文章だけだったらヘヴィに過ぎるかもしれないところを、絵がページを繰る手を後押ししてくれる。漫画の作法として、まずネーム(テキスト)を書いて、それから絵を描いていったのだろうが、絵のほうも考え込みつつ、ときに逡巡しつつ1カットずつ描き進めていったような、痛みのこもった線に見えてくる。その線は緻密でも技術的に高度でもないけれど、だからこそリアルでもある。

 物語がぱっくり開いた傷口なのだとすれば、漫画はこんなふうに傷口を覆うバンドエイドになれるのかもしれない。表側まで少し血の滲んだ。

新潮社 週刊新潮
2016年11月3日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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