世界の終わりとシリーズ探偵――『パレードの明暗 座間味くんの推理』刊行エッセイ 石持浅海

レビュー

8
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パレードの明暗

『パレードの明暗』

著者
石持浅海 [著]
出版社
光文社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784334911263
発売日
2016/10/17
価格
1,512円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

世界の終わりとシリーズ探偵――『パレードの明暗 座間味くんの推理』刊行エッセイ 石持浅海

[レビュアー] 石持浅海

 僕はシリーズ探偵を作るのが苦手だ。

 デビューして十四年経った今でも、二冊以上登場した探偵役は三人しかいない。しかもその内の一人は、二冊目でシリーズ最大の謎をばらしてしまったから、もう続きが書けなくなってしまった。というわけで、現存するシリーズ探偵は、実質二人だけということになる。

 どうしてこんなことになったかというと、僕の作家としての性質に原因がある。僕が物語を作るときには、まず物語世界を設定する。次に世界にふさわしい登場人物を配置する。探偵役もだ。世界が主で、探偵役が従。そんな構造になっているため、物語が終われば、探偵役はそこでおしまい。続編を書く余地がないくらい綺麗に完結させることが正しい姿だと思っているから、次の作品では、また新しい物語世界を作ることになる。新しい世界にふさわしいのは新しい探偵役であって、終わった世界から転送されてきた旧探偵役ではない。むりやり当てはめようとすると、世界の方が破綻してしまう。だからシリーズ探偵が作りづらいのだ。

 連作そのものが苦手なわけじゃない。設定を一つ作って、舞台にふさわしい探偵役を配置する。小さい事件を起こして探偵役に解決させる短編を、六話から七話くらいでまとめる。そういった作業は、むしろ得意な方だ。事実、数多くの連作短編集を出している。それぞれの第一話だけをまとめた『第一話』という一人アンソロジーが作れてしまうくらい。

 ちょっと待て。数多くの連作だって? 短編に使える設定ができたのなら、延々と使い続ければいいじゃないか。そうお思いだろう。ところが、そうはいかない。連作短編集とは、単純に短編を寄せ集めただけのものではない。一冊を通しての企み、仕掛けが求められるのだ。最終話で、短編集全体の謎が解ける。そういった作りにしなければならない。そして全体の謎が解かれるということは、物語世界の終わりを意味する。だから僕の連作短編集は一冊で終わってしまい、次がないのだ。

 それでも、先に書いたように、シリーズ探偵が二人いる。その一人が「座間味(ざまみ)くん」だ。座間味くんは『月の扉』という長編で探偵役を務めた会社員だ。『月の扉』は一冊できっちり終わり(我ながら見事な着地だった)、彼の役割はこの作品だけで終了するはずだった。

 ところが『月の扉』が望外の評価をいただいたため、気まぐれを起こして彼を再登場させることにした。とはいえきっちり終わった話の続きを書くことは難しい。他の作品世界に無理に登場させても、作品世界が破綻してしまうのは、先ほど書いたとおりだ。そこで作品世界は継承しながら、新しい事件には遭遇させないという手法を採ることにした。つまり安楽椅子探偵。事件に巻き込まれるわけではないから作品世界を壊さなくていいし、長編で一度世界を終了させているから、連作短編全体の企みも必要ない。『月の扉』を読んで座間味くんを好きになってもらった読者さんたちと、余韻のような時間を共有できる。そうやってすでに二冊の短編集ができた。シリーズ探偵としては、うまい生き延び方だと思う。

 そんな座間味くんシリーズに、三冊目の短編集ができた。仕事に悩む女性機動隊員を相手に、彼はどんな推理を語るのか。

 終わった世界でのんびりと酒を飲む座間味くんに、よかったらつき合ってやってください。

石持浅海

光文社 小説宝石
2016年11月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

光文社

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