『戦後民主主義をどう生きるか』 三谷太一郎著

レビュー

1
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

戦後民主主義をどう生きるか

『戦後民主主義をどう生きるか』

著者
三谷 太一郎 [著]
出版社
東京大学出版会
ジャンル
総記/総記
ISBN
9784130033398
発売日
2016/09/28
価格
3,024円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『戦後民主主義をどう生きるか』 三谷太一郎著

[レビュアー] 橋本五郎(読売新聞社特別編集委員)

滋味ある「碑誌伝状」

 唐宋以後の中国における歴史叙述には、公的な「列伝」とは別に「碑誌伝状(ひしでんじょう)」の文というものがあるという。吉川幸次郎『漢文の話』によると、その多くは「墓誌銘」の形をとった私的な伝記であり、故人の事蹟(じせき)を記述しつつ広く人間の問題を説こうとする態度が顕著だという。

 三谷さんは、互いに影響し合いながら「知的共同体」を築き、それぞれの専門を究めた先達への限りない哀悼を綴(つづ)っている。学問的評価を含めてその人の一生を言い切るのは難しい。この書には滋味あふれる「碑誌伝状」の文が連なっている。

 新渡戸稲造、南原繁、岡義武、丸山眞男、福田歓一、斎藤眞、細谷千博、篠原一、坂本義和、升味準之輔、三ヶ月章、田中英夫、平井宜雄、安江良介、粕谷一希……。

 政治学者丸山眞男は、師の南原繁が愚直なまでに「信ずる人」だったのに対し「疑う人」であり、外面的道徳、とくに「礼儀」を重んじた。自分が亡くなって墓碑銘を彫るとしたら、「道を求めて道を得ざりし者ここに眠る」と書いてもらいたいと話していたという。戦後もっとも影響力のあった政治学者にとっても、振り返れば、道を求める旅の途中という思いがあったのだろう。

 『日本政党史論』(全7巻)の著者升味準之輔を政治理論と政治史が高いレベルで二位一体となっていると評価、病床にあることを知りつつ会いに行けなかった悔恨を吐露し、シューベルトとの会見を願いながら、その死を知らされたゲーテの痛恨の言葉を引用している。

 「人生はいつもzu spa¨t.(too late)だ」「Sofort―今すぐ、oder nie―すぐでなかったらすべて間に合わない」

 限られた紙幅でわずかしか紹介できないのが残念だが、丸山評価は完成した文章表現の文学的価値によってなされるべきであるという著者の主張に倣えば、三谷さんの「碑誌伝状」の文もすぐれた文学的表現であるとの思いを禁じ得ない。

 ◇みたに・たいちろう=1936年、岡山市生まれ。政治学者。日本学士院会員。著書に『大正デモクラシー論』など。

 東京大学出版会 2800円

読売新聞
2016年10月30日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

  • このエントリーをはてなブックマークに追加