『ニクソン訪中機密会談録増 補決定版』 毛里和子、毛里興三郎訳/『秘密解除 ロッキード事件』 奥山俊宏著

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ニクソン訪中機密会談録

『ニクソン訪中機密会談録』

著者
Kissinger, Henry [著]/Nixon, Richard M. [著]/周 恩来 [著]/毛 沢東 [著]/毛里 和子 [訳]/毛里 興三郎 [訳]
出版社
名古屋大学出版会
ISBN
9784815808433
価格
3,888円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

秘密解除ロッキード事件 田中角栄はなぜアメリカに嫌われたのか

『秘密解除ロッキード事件 田中角栄はなぜアメリカに嫌われたのか』

著者
奥山 俊宏 [著]
出版社
岩波書店
ISBN
9784000245265
発売日
2016/07/21
価格
2,052円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『ニクソン訪中機密会談録増 補決定版』 毛里和子、毛里興三郎訳/『秘密解除 ロッキード事件』 奥山俊宏著

[レビュアー] 出口治明(ライフネット生命保険会長)

米公開文書を基にした力作

 世の中は田中角栄ブームである。景気が低迷するなかで、古き良き高度成長時代のシンボルでもあった田中がある種の懐かしさをもって回顧されているのだろう。田中と言えば、しかし、何と言ってもロッキード事件であり日中国交回復である。この2つの事件についてアメリカの公開文書を基にした2冊の本が出た。

 『ニクソン訪中機密会談録【増補決定版】』(毛里和子・毛里興三郎訳)は旧版を増補したものである。1972年2月、ニクソン大統領は中国を訪問して上海コミュニケを発表、米中の歴史的和解を実現した。旧版を読んだとき、ニクソン、キッシンジャー、毛沢東、周恩来の余りにも率直でオープンな会談記録に度肝を抜かれた。20年敵対していた大国の首脳間のやりとりとは思えなかったのだ。新版では、旧版で抹消されていた部分(8会談で18か所)がすべて回復されている。

 その大半は日本関係であって、ニクソンは「我々の政策は、日本が経済的拡張から軍事的拡張に進むことを可能な限り抑止すること」「日本が台湾独立運動を支持するのを思いとどまらせましょう」「日本を抑制することが太平洋の平和にとって利益になる」「日本に我々の軍隊がいなければ、日本は我々のことを気にもしない」などと述べ、在日米軍は日本を牽制(けんせい)するために置いているのだと中国側を説得している。またキッシンジャーは、日本人は秘密を守ることができないとこぼしていて、米中の歴史的な絆の太さが実感される。同時に、日本外交のうぶさ加減も痛感させられる。日本は日米同盟を信じているが、アメリカが同じレベルで考えているかと言えば、実はそうではないかもしれないのだ。

 次は『秘密解除 ロッキード事件』である。ニクソンに先んじられた日本では、72年7月に田中内閣が成立し、田中は9月に訪中、日中国交正常化を成し遂げた。米中国交正常化は後れて79年である。72年6月にウォーターゲート事件が起こり、ニクソンは2年後に辞任。この事件によって秘密と権力濫用(らんよう)に対する激しい反動がアメリカ社会に生じた。その空気が、72年夏に誕生したチャーチ小委員会(上院外交委員会の下部組織)を活性化させ、多国籍企業と中央情報局(CIA)の活動がアメリカの外交に与える影響を調査し始めて、田中への献金、すなわちロッキード事件が明るみに出た。

 つまり、ウォーターゲート事件がなければ、ロッキード事件もなかったのだ。国務長官になっていたキッシンジャーは何でもマスコミにリークする田中を嫌っていたが、外国高官の名前を出すことは外交上得策ではないと考え、一貫してチャーチ小委員会の活動に対して批判的だった。しかし、三権分立の国では、真実を明らかにしようとする議会の活動を差し止めることは不可能だったのである。

 一方、日本では、田中の後を継いだ三木首相は真相解明に熱心だったが、自民党の中曽根幹事長が穏便な対応を米政府首脳に求めていたことを示す公電が、秘密解除で明らかになった。チャーチ小委員会は、CIAから日本の政党への資金提供と児玉誉士夫の関係にも切り込もうとしたが、チャーチが大統領予備選に名乗りをあげたこともあって76年秋に消滅した。

 なお、田中が独自の資源取得外交を進めたことで米石油メジャーの反感を買い、「アメリカの虎の尾を踏んだ」とする説があるが、それを裏付けるものは米側公開資料には見あたらない。こうした力作が生まれるのも情報公開の賜物(たまもの)だろう。あと10年もすればチャーチ小委員会の記録が閲覧できるようになる。そのとき、ロッキード事件はどのように総括されるのだろうか。

 ◇おくやま・としひろ=1966年、岡山県生まれ。朝日新聞編集委員。

 でぐち・はるあき 1948年、三重県生まれ。2008年ライフネット生命保険を開業し、現在会長。著書に『「全世界史」講義1、2』など。

読売新聞
2016年10月30日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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