マーケティングも人生と同じ?

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競争としてのマーケティング

『競争としてのマーケティング』

著者
丸山謙治 [著]/ジャック・トラウト [序文]
出版社
総合法令出版
ISBN
9784862805270
発売日
2016/10/21
価格
1,650円(税込)

書籍情報:openBD

マーケティングも人生と同じ?

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

競争としてのマーケティング』(丸山 謙治著、ジャック・トラウト序文、総合法令出版)の著者は、深い交流があるというアル・ライズ、ジャック・トラウト両氏について次のように述べています。

二人は、「マーケティングは”アイデア”を武器とした企業間の知的戦いである」とし、「Positioning(ポジショニング)」という斬新な競走思考コンセプトを提唱して世界中で講演やコンサルティングを行ってきたマーケティングの革命児である。
(「はじめに」より)

国を問わずビジネス界に影響を与えてきたふたりが唱えるマーケティングの目的は、顧客のニーズやウォンツを満たすことではないのだと著者は解説します。企業間競走を生き抜くことであり、従来の顧客思考とは発想が根本的に異なるというのです。

マーケティングで戦場となる顧客の心の中に独自のポジションを築き、競合品との差別化を通して競走優位性を創り出す彼らのマーケティング理念は、知力で他者を凌駕する”知的競走”志向なのである。
(「はじめに」より)

本書は、そんなライズとトラウトのマーケティング理念を、多忙なビジネスパーソンでも短時間で読みこなせるように、83種のメッセージとしてわかりやすく解説したもの。きょうはそのなかから、「【第7章】マーケティングも人生と同じ」に焦点を当ててみましょう。マーケティングの視点から、現代社会を生き抜くための人生訓を伝授しようというユニークな章です。

人生もマーケティングも賭けである

今後の自分の人生がどうなるのかは、誰にも予測できないもの。不確定要素が多すぎて将来を正確には予測できないからこそ、ミュージシャンや作家や役者に限らず、誰でも今後の人生について思い悩むことがあるわけです。そして、ライズとトラウトもこう述べているのだといいます。

「人生は賭けであり、マーケティングもまた賭けである」(217ページより)

ふたりは「マーケティングとは将来を競うゲームである」と捉えているということ。将来を競うマーケティングに、「これをやればこうなる」という方程式はなく、完璧なマーケティング戦略もないわけです。

苦心の末に創り上げた戦略がうまくいかないとき、その戦略を継続するか変更するか、大いに迷うときがあります。場合によれば、それが社運を左右することもありうるでしょう。つまり、マーケティングもまた、人生と同じように賭けだということ。だからマーケティングはおもしろいのだと著者は記しています。(216ページより)

人生においてもビジネスにおいても「生き残り」は人間の本能

合理的に考えて行動しているように見えても、ときに非常に非合理的に行動するのが人間。特に自分が危機的状況に陥ったときは、普段冷静な人間でさえ、理性を失ってしまうこともあるといいます。そして、このことに関連してライズとトラウトは、「生き残りは、人生においてもビジネスにおいても人間の本能である」と述べているそうです。

「溺れる者は藁をもつかむ」ということわざがありますが、それはビジネスにもいえること。たとえば強豪を攻撃しようとするとき、相手企業が合理的な判断の下に反撃してくるだろうなどと思ってはならないといいます。なぜなら追い詰められれば、生き残るために常識では考えられないような逆襲をしてくる可能性も考えられるものだから。

逆に競合がより大きな企業であれば、理性ではなく、メンツにかけてでも潰しにかかってくる可能性も。なぜなら企業で指揮をとっているのは機械やコンピュータではなく、”生身の人間”だからです。

つまり、マーケティングは生き残りを賭けた戦い。そこでは往々にして、合理的であることよりも、本能的な非合理性が優先されるというわけです。(218ページより)

成功者は、予想外の出来事を最大限に利用する

どれだけ綿密な計画を立てたとしても、予想外の事態は起こるもの。なにかを成し遂げようとしているときに予想もしなかったことが起き、頓挫してしまうようなことも珍しくはありません。しかし成功した人や偉業を成し遂げた人は、そうした出来事を否定的に捉えず、むしろチャンスとして受け止め、さらなる発展に変えてしまうのだと著者は指摘しています。

ライズとトラウトはいう。
「予想外の出来事が起こったとき、成功者はそれを最大限に利用する」
逆に「うまくいかない人は、自分自身で抱え込んでしまい、広い視野で見ようとしない」と指摘する。
(222ページより)

予想外の出来事は、誰にでも必ず起こると思ったほうがよいと著者。その予想外の出来事を味方につけ、成功への礎にできるかどうかは、すべて自分自身にかかっているという考え方です。(222ページより)

成功は「誰を知っているか」にかかっている

ひとりの人間の知識量は限られているものであり、世の中には知らないことのほうが圧倒的に多いといえます。ライズとトラウトの人生哲学の根幹にあるのも、「自分ひとりの力だけで成功などあり得ない。成功するかどうかは、他人の力による」という考え方。どんなに物知りで才能があったとしても、それらを発揮する機会が与えられ、それらが認められ評価されなければ開花しないということです。

そこで成功するためには、自分の知識や才能を活かし、引き上げてくれる立場の人が必要となるわけです。人脈の大切さはここにあるということで、ライズとトラウトも「成功は、なにを知っているのかではなく、誰を知っているのかにかかっている」という言葉を残しているそうです。

だからこそ、自分を過信してはならないわけです。自分はなんでも知っているなどと思い上がらず、他人の力を信じることが重要。自分を成功へ導いてくれるのは他人であり、その他人が誰であるかを知ることが成功への鍵となるという考え方です。(226ページより)

成功は、受け入れることからはじまる

ライズとトラウトは、マーケティングでもっとも無駄なことのひとつが、「人の心を変えようとすること」だと繰り返し述べているのだそうです。なぜなら、いったん固まってしまった人の心は変えられないから。そして変えられないのであれば、そのことを悲観して嘆くよりも、それを受け入れ、最大限に活用するほうが懸命であるという考え方。

「人生における成功は、受け入れることから始まる」とライズとトラウトは述べている(230ページより)

たとえば会社で、望まない部署や閑職に配属されたり、意に反して子会社に出向させられるときもあるでしょう。しかし、自分の力ではどうにも変えられないものを恨んでも意味がありません。変えられない、あるいは変えるのが難しいのであれば、それを受け入れるのが大切だということです。そして、そのうえで、主体的に変えることができるものの改革に取り組むべき。そして、まず最初に変えることができるのは、自分自身の考え方だといいます。

事実、企業の経営幹部の経歴を見てみてもそれは明らか。主流から外れて子会社に出向となるものの、そこで成果を上げたことが評価され、本社に呼び戻されて役員や社長に抜擢されるというようなケースも少なくないというのです。いわば、受け入れるか受け入れないか、その違いが人生の成否を分けるということ。(230ページより)

著者のいうとおり各項目がコンパクトにまとめられているため、スムーズに読み進めることが可能。ライズとトラウトの考え方を効率的に学ぶことができるだけに、ぜひとも目を通しておきたい1冊だといえます。

(印南敦史)

メディアジーン lifehacker
2016年11月9日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

メディアジーン

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