『核拡散防止の比較政治』 北野充著

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核拡散防止の比較政治

『核拡散防止の比較政治』

著者
北野 充 [著]
出版社
ミネルヴァ書房
ジャンル
社会科学/政治-含む国防軍事
ISBN
9784623076468
発売日
2016/07/20
価格
6,480円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『核拡散防止の比較政治』 北野充著

[レビュアー] 村田晃嗣(国際政治学者・同志社大教授)

開発や断念、実例探る

 外交の実務とは、このようなものなのであろう。本書を読んで、改めてそう痛感する。核拡散防止に関する議論が、実に精緻かつ立体的に構成されているからである。

 本書ではまず、核開発に関わる決断について、推進要因、抑制要因、そして、両者を比較して判断する枠組みの3点から考察される。次いで、核開発プロセスをめぐって、外国の支援や非合法ネットワーク、自力の技術開発が検討される。第三に、核開発を阻止するための取り組みとして、核不拡散レジーム、外交的・非外交的手段が分析されている。そして最後に、核開発がもたらす影響についても、核保有を顕在化した場合と秘匿化した場合(イスラエル)を区別しながら、多層的に検証されていく。

 こうした分析枠組みの下で、取り上げられる事例研究も豊富である。核保有に至った国として、中国、イスラエル、インド、パキスタンが挙げられている。中国については、核拡散防止条約(NPT)でも核保有国としての地位が認められているが、1964年の中国の核保有は、国際的な不拡散レジームを生み出す一因となるとともに、インドの核実験を誘発するなど、今日の北朝鮮やイランの核問題と同様の国際問題であった。

 核兵器の開発を断念した国としては、南アフリカ、イラク、リビア、ウクライナが俎上(そじょう)に上っている。南アフリカとリビアの場合、核兵器なしには自国の安全保障を確保できないという必要性に乏しかったと、著者は指摘している。

 イランや北朝鮮の核開発問題が深刻になるにつれて、NPTなど核不拡散レジームの効果に懐疑的な見方が広がっているが、「普遍的な価値の基準を示す規範力」は強いと、著者は力説する。奇抜な外交は危険である。常識的な議論の冷静な積み重ねが、説得力を持っている。北朝鮮の動向が不気味さを増す今日、一読に値する労作である。

 ◇きたの・みつる=1957年、東京都生まれ。外務省軍縮不拡散・科学部長を経て、ウィーン国際機関大使。

 ミネルヴァ書房 6000円

読売新聞
2016年11月6日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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