『鬼才 五社英雄の生涯』 春日太一著

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鬼才 五社英雄の生涯

『鬼才 五社英雄の生涯』

著者
春日 太一 [著]
出版社
文藝春秋
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784166610877
発売日
2016/08/19
価格
994円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『鬼才 五社英雄の生涯』 春日太一著

[レビュアー] 清水克行(日本史学者・明治大教授)

業が生んだ悲哀の映像

 いま1970~80年代の日本映画界と時代劇を語らせたら、最もアツい男が、この著者だろう。最近では勝新太郎や市川崑、仲代達矢など往年の映画人の評伝や聞き書きで傑作を連発し、評伝作家としての力量も発揮している。その著者が新たな題材として選んだのが、「人斬り」「鬼龍院花子の生涯」「極道の妻たち」などで知られる映画監督、五社(ごしゃ)英雄(1929~92)である。

 五社の作品はエロスと暴力に彩られ、本人にも暴力団との交際や銃刀法違反容疑などスキャンダラスな話題が尽きない。その複雑な人物の生涯を、ときに共感し、ときに突き放し、適正な距離を保ちながら、読みごたえある評伝に仕上げている。

 生涯にわたってつねに人気絶頂を維持できるアーティストなどいるわけがない。著者の描く評伝中の鬼才・天才たちも、一様に喝采と低迷の激しい振幅を味わい、それに翻弄される。そして、いずれも自らの“業”が、その悲劇の一因をなしているという点に共通点がある。

 五社の場合は、その生涯の前半をテレビ界、後半を映画界で過ごした。しかし、その豪放磊落(らいらく)な振る舞いの一方で、五社はつねにテレビ局の「会社員」であることを、ナイーブなまでに意識し続けた。会社の命令なら御用組合の委員長も引き受けるし、テレビ局を離れ映画界に入るにあたっては背中一面に鬼の彫り物を入れて「カタギ」への未練を捨てる。フリーランスが一般化した現在から見ると、なぜそこまでせねばならないのか、むしろその苦悩や迷走ぶりが読んでいて痛々しい。著者は、そうした五社の露悪的な嗜好(しこう)や、ヒット作狙いで無理して多作を続ける姿を、「組織に属さない人間に課せられた悲哀」として哀感を込めて描く。

 読後、五社作品の一つ一つを思い返すと、彼の作中人物にも同じ悲哀が流れていることに気づいた。己の身を斬り“業”をさらけ出し、その鮮血のなかから作品を生み出す。まさに、それこそが鬼才たる所以(ゆえん)か。

 ◇かすが・たいち=1977年、東京都生まれ。時代劇・映画史研究家。著書に『天才 勝新太郎』など。

 文春新書 920円

読売新聞
2016年11月6日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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