『周―理想化された古代王朝』 佐藤信弥著

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周−理想化された古代王朝 (中公新書)

『周−理想化された古代王朝 (中公新書)』

著者
佐藤 信弥 [著]
出版社
中央公論新社
ISBN
9784121023964
発売日
2016/09/20
価格
886円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『周―理想化された古代王朝』 佐藤信弥著

[レビュアー] 出口治明(ライフネット生命保険会長)

祭祀と軍事で読み解く

 中国では、常に古代の聖天子の時代が憧憬されてきた。伝説の堯(ぎょう)や舜(しゅん)はともかく実在が確実視される周の文王や武王、周公旦(しゅうこうたん)の時代である。彼らの王墓は正確な場所は不明だというが、ここにも想像力を掻(か)き立てるロマンの種がある。

 周は約800年続いたが、意外なことに、これまでは読みやすい通史がなかった。本書は待望の一冊である。従来の中国の古代史はおおむね司馬遷の「史記」の叙述に依拠してきたが、当時の金文(きんぶん)(青銅器に彫られたもの)や竹簡などの同時代資料が陸続と発掘されるにつれ、古代王朝の実像が少しずつつまびらかになってきた。著者は、周を読み解くキーワードとして祀(し)(祭祀)と戎(じゅう)(軍事)をあげる。なるほど、切れ味はよさそうだ。

 周が成立したのは紀元前11世紀後半。2代成王の時代に周王朝の拡大が始まり、周王は諸侯らを統合する手段として、各地で諸侯らを参加させ、池水で「会同型儀礼」を行った。これは殷の狩猟・漁撈(ぎょろう)儀礼を引き継いだもので、宝貝などの賜与品が主君とのつながりを深めるために配られた。6代共王のあたりから、周王朝の軍事的な支配領域拡大(戎)が頭打ちとなり、儀礼も「冊命儀礼」(王が臣下に職務を任命)に変化する。戎と祀はリンクしていたのだ。

 10代●王は暴君として追放され(共和の政)、紀元前771年、12代幽王の時代に周は滅亡する(●は「がんだれ」に「萬」)。周の王族が洛陽に東遷して東周となり、500年生き延びるが、もはや祀や戎をリードする力は残っていなかった。

 そこで諸侯の中の有力者(春秋5覇)が台頭したのである。乱世を嘆いた孔子は、礼制(祀)の再編を試みる。儒家は西周の祀を復活させたと主張したが、実際は、当時の東周の礼制を元に儒家が文献に散見される関連の記述をたよりに西周時代の祀を修復、もしくは創造したものだった。伝説の周王朝の実像に迫った意欲作で、古代における祀の重要性がとてもよく理解できた。

 ◇さとう・しんや=1976年、兵庫県生まれ。立命館大白川静記念東洋文字文化研究所客員研究員。

 中公新書 820円

読売新聞
2016年11月6日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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