1週間であなたは伝説になる――「挨拶」の効用

レビュー

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言葉の持つ力が人間の能力に与える影響とは

[レビュアー] 立川談四楼(落語家)

 正式には立位体前屈と言うらしいのですが、いわゆる前屈というのがあります。これをやると私などは腰と腿の裏がすぐ痛くなるくらい体が硬いのですが、ここでたとえば「おはようございます」と声を発して前屈するとあら不思議、かなり深く前屈できるのです。

 割と知られた実験ですが、著者は「不思議な現象などではありません。科学的な結果なのです」と言い切ります。そして、言葉の持つ力が人間の能力に影響を与えることを検証してきた経験から、本書では挨拶の持つ力に特化し、「1週間であなたは伝説になる」と謳うのです。

 (月) 挨拶をする。(火) ありがとうと言う。(水) 言葉を口に出す……と極めてまっとうな一週間のメニューです。しかしこれ、案外できそうでできないことで、著者はあえてハードルを低く設定していて、なかなか戦略的なのです。

 何年か前の著者は体調を崩していました。ちょっと心配される病状でもあったのですが、今は完全に回復し、絶好調と聞きます。自身が考案したメニューを実践しているからに他ならないと想像がつくわけです。

 現在の著者は大正大学の客員教授として言葉の力について授業を展開。一方で演劇スクール講師の顔も持ち、心理学、脳科学、生理学等を研究、言葉とコミュニケーションのスペシャリストになっています。

 著者はかつてミノルタカメラのCMで有名になった宮崎美子のソックリさんとして売り出しました。宮崎美子が女優になり、女優を続けながらクイズ女王の名声を獲得したように、著者もまた本格派の落語家でありつつ、もう一つのポジションを獲得したわけで、その努力を素直に称えたいと思います。

 著者は今や飛び道具と付加価値を得た落語家です。落語の公演に加え、言葉や挨拶に関する本を何冊か出した結果、企業や学校、自治体からの講演依頼が多いとも聞き、これまためでたい話なのです。

新潮社 週刊新潮
2016年11月17日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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