『泥酔懺悔』ほか お酒にまつわる面白エピソード満載の3冊

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  • 泥酔懺悔
  • 飲めば都
  • やし酒飲み

書籍情報:版元ドットコム

お酒にまつわる面白エピソード満載の3冊

[レビュアー] 瀧井朝世(ライター)

 お酒は大らかに、楽しく飲みたい。多少の酔っ払いには寛容でいたいし、周囲の人もそうあってほしい。そこに人としての度量が表れるとすら思う……のは、自分が酒好きだからだろうか。というわけでタイトルに共感をおぼえずにいられないのが、女性作家によるエッセイのアンソロジー『泥酔懺悔』。瀧波ユカリや平松洋子の若い頃の苦い思い出はその青さが微笑ましく、三浦しをんと角田光代の失敗談は豪快で頼もしく、藤野可織の「私は、お酒を飲んでおかしなことになっている人といっしょにおかしなことになりたいのだ」という主張は大いにうなずける。そして山崎ナオコーラの「ひとりでお酒を飲む理由」というタイトルの、酒と自立の話には背筋がすっと伸びる思い。みんな、愛おしい酒飲みたちだ。

 書き手だけでなく、編集者にも酒飲みはもちろんいる。北村薫飲めば都』(新潮文庫)は女性文芸編集者、小酒井都のよく働き、よく飲む日々が活写される。「こういう編集者、本当にいる!」と思える人たちが続々登場、彼らの酒の席でのウィットに富んだ会話も刺激的なうえ、編集部の雰囲気や本づくりの過程がよく分かるのも一興だ。それにしても知的でお茶目で仕事に対する矜持や人としての品性を持ちつつ、豪快な酔っ払いエピソードまでも持つ女性編集者たちが魅力的なことといったら。彼女たちの酒席に参加したくなってくる。

 海外の酔っ払い文学として(私の中で)燦然と輝く一冊といえばナイジェリア人作家、エイモス・チュツオーラの『やし酒飲み』(土屋哲訳、岩波文庫)である。裕福な家庭に生まれ、十歳の頃からやし酒を飲む以外何もしないで毎日を過ごしてきた〈わたし〉は、死んでしまった専属のやし酒造りの名人を呼び戻すため、「死者の町」へと旅立つ。すべてはやし酒をまた飲みたいがため。そんな道中で出くわすのは、頭蓋骨だけの男や後ろ向きに歩く死者など、精霊もしくは妖怪じみた奇妙奇天烈な生き物たち。無限に広がるアフリカの神話世界にとことん酔いしれる一冊だ。

新潮社 週刊新潮
2016年11月17日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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