『太陽と痛み』 ヘスス・カラスコ著

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太陽と痛み

『太陽と痛み』

著者
ヘスス・カラスコ [著]/轟 志津香 [訳]
出版社
早川書房
ジャンル
文学/外国文学小説
ISBN
9784152096364
発売日
2016/09/21
価格
2,160円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『太陽と痛み』 ヘスス・カラスコ著

[レビュアー] 稲泉連(ノンフィクションライター)

赤い大地の濃密な匂い

 一つひとつの自然や心情の描写に、大地を照らす太陽の無情なまでの日差しを感じる。そんな小説である。

 著者は一九七二年生まれのスペイン人作家。本書が初の長編という。

 ふと手に取った一冊だが、本との良い出合いを感じた。暗い情熱に彩られた物語世界に惹(ひ)かれたからだ。

 乾いた土と草、汗や血の匂い、暴力の濃密な気配。物語の場所や時代は詳しく描かれない。おそらくそこはスペイン南部の赤茶けた石と灌木(かんぼく)の荒野で、小さな村に暮らす少年が、最小限の食料と水を持って北へ逃走する。

 少年が村を逃げ出した理由も同じく語られないが、それが極めて不条理な事態であることだけは分かる。そして、旱魃(かんばつ)によって赤く焼けた大地を一歩一歩と進む彼は、無口なヤギ飼いの老人に出会うのだった――。

 冒頭、オリーブ畑の小さな穴に隠れ、殺気立った追っ手をやり過ごすシーンから、前述の濃密な匂いと気配はすでに漂い始め、私はいつの間にか重々しい世界観に圧倒されている自分に気付いた。帯文の惹句(じゃっく)に「コーマック・マッカーシーを思わせる」とある通り、『ザ・ロード』などを連想させる瞬間もあった。

 過酷な渇きと邪悪な暴力にひどく痛めつけられてなお、気高さと尊厳を守ろうとする姿勢を手放さない老人。その傍らに寄り添いながら、ついには勇気を振り絞って前に進もうとする少年。ともに北へ向けて歩き続けるうち、荒野に彷徨(さまよ)っていた二つの孤独がそっと寄り添っていく過程に胸打たれる。

 生きることや正しさとは何かという切実な問いかけが、次第に心を通じ合わせる彼らの姿を通して真っ直(す)ぐに伝わってくる、と言えばいいだろうか。作中、隠れるところなどどこにもない乾いた大地に、二個の魂が弱々しくも確かに発光していた。轟志津香訳。

 ◇Jes´us Carrasco=スペイン・バダホス生まれ。コピーライターなどの職業を経て2013年から小説家に。

 早川書房 2000円

読売新聞
2016年11月13日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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