難民問題 墓田桂 著

レビュー

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難民問題 墓田桂 著

[レビュアー] 野崎歓

◆人道主義の落とし穴

 著者の講演を聞いて「現実主義的な話をありがとうございました」と礼を述べた聴講者がいたと「あとがき」にある。本書を一読して同じ気持ちである。ただし皮肉まじりにいうのではない。

 現実主義はしばしば、理想を欠いた計算高さとして否定的に捉えられる。しかし理想ばかり優先させることに致命的な落とし穴が潜む場合もありうる。現在、EUの国々が直面しているのがそうした事態だ。その根幹には西欧の誇る人道主義があり、多文化主義を是とする姿勢があることを、本書は鮮やかにあぶり出す。貴い理念を掲げて自縄自縛になったとき、社会は危険にさらされることとなる。百万人規模の難民の到来と、凶悪なテロ事件の続発以後、フランスやドイツは「優等生のいたわしい姿」を示している。

 その姿から日本は何を学ぶべきか。安易な感情論に流されない慎重な判断が求められると著者はいう。寛容や共生よりも拒絶、排斥を選ぶべき局面もある。善意のみで問題が解決するはずはない。難民受け入れ数の少なさを恥じるより「国益」を真剣に考えるべきではないか。

 現政権に追随するような結論はあまりに保守的だろうか。だが、問題を見極めようとする筆致は冷静沈着で説得力がある。現実主義の上にこそ理想を、という切なる思いも伝わってくる。世界の今日と明日を考えるために必読の一冊だ。
 (中公新書・929円)

 <はかた・けい> 1970年生まれ。成蹊大教授。著書『国内避難民の国際的保護』。

◆もう1冊 

 坂口裕彦著『ルポ 難民追跡』(岩波新書)。ドイツに向かうアフガン人一家に随行し、難民問題の背景を考える。

中日新聞 東京新聞
2016年11月20日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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