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直木賞も見習って!ジャンル不問、傑作揃いの泉鏡花文学賞
[レビュアー] 豊崎由美(書評家・ライター)
いまだにSF、ファンタジー、本格ミステリに門戸を開きたがらない、心がせまーい直木賞に見習ってほしいのが泉鏡花文学賞です。ジャンル不問、新人ベテラン、純文学エンタメのわけへだてなし。気持ちいいくらい開けっぴろげの賞なんです。その上、受賞作は傑作揃い! ためしに、十月に発表されたばかりの第四十四回受賞作、川上弘美『大きな鳥にさらわれないよう』を読んでみて下さい。
食料のみならず子供まで工場で作っている奇妙な町の話「形見」から滑り出すこの作品は、一篇一篇独立した読み物としても愉しめる十四篇全体で、壮大なスケールの物語を形成する長篇小説になっています。最初のうちは、頭の中に「?」が何度も点滅しますが、読み進めていくうちに「?」が「!」と化す。そんな「わかっていく」快感が嬉しい寓話であり、ファンタジーと思いきや――。
終盤、物語は一気に本格SF小説へと傾いていき、最終話「なぜなの、あたしのかみさま」に至ると、これが〈常に未整理の混沌をかかえている〉われわれ人類の滅亡と再生を描いた二十一世紀の神話であることが判明。もともとが生粋のSF者である川上弘美が、ついに自分の出自を十二分に活かした作品を書き上げた、そんな讃辞を寄せたくなる傑作なんです。
さすが、第一回で半村良の伝奇小説『産霊山秘録』を選んだ泉鏡花文学賞。お目が高いっ。と、ことほど左様に確かな選球眼を誇るこの賞が制定されたのは、泉鏡花生誕百年を記念した一九七三年。多くの文学賞とは違って、出版社ではなく金沢市によって主催されていて、それゆえ授賞式も同市で行われています。選考委員は、嵐山光三郎、五木寛之、金井美恵子、村田喜代子、村松友視(第三十七回〜)。受賞者には正賞として八稜鏡、副賞として百万円が授与されます。
これまでの受賞作で個人的に熱烈推薦したいのは、金井美恵子『プラトン的恋愛』(第七回)、筒井康隆『虚人たち』(第九回)、倉橋由美子『アマノン国往還記』(第十五回)……こんな小っちゃなスペースじゃ、とても全部は挙げきれない!(悲鳴を上げて筆をおく)