『最も危険なアメリカ映画』 町山智浩著

レビュー

1
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

最も危険なアメリカ映画  『國民の創生』から『バック・トゥ・ザ・フューチャー』まで

『最も危険なアメリカ映画 『國民の創生』から『バック・トゥ・ザ・フューチャー』まで』

著者
町山 智浩 [著]
出版社
集英社インターナショナル
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784797673340
発売日
2016/10/26
価格
1,296円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『最も危険なアメリカ映画』 町山智浩著

[レビュアー] 宮部みゆき(作家)

「米国の黒歴史」内包

 キューブリックの「二〇〇一年宇宙の旅」と、コッポラの「地獄の黙示録」。何度観(み)ても難解で、私には「?」な名画だった。その「?」を解消してくれたのが、本書の著者町山智浩さんの『〈映画の見方〉がわかる本』と『ブレードランナーの未来世紀』だ。映画を観るのは楽しいし、観た映画について語り合うのも楽しい。そこに優れた評者による分析や解読が加わればもっと楽しい。

 本書もまた、基本的には町山さんによるスリリングなアメリカ映画の分析・解読だ。ただ今回ちょっと特殊なのは、取り上げられている作品が「アメリカの黒歴史」とでも呼ぶべきテーマを内包していることである。先住民の悲劇、苛烈な人種差別、アカ狩り、戦争と兵士のPTSD、メディアに乗っかる伝道師、黄金の五〇年代の裏面、暴走するポピュリズム――全体に地味な作品が多いし、いつもの町山さんの著書のように、読んだらすぐワクワクとその映画を観たり観直したくなるとは限らない(あの「バック・トゥ・ザ・フューチャー」でさえも!)。すぐには観られそうにない映画もある。たとえば第3章の「空軍力による勝利」はディズニーによる戦意高揚アニメで、第二次世界大戦中に創られた作品だから、この空軍の敵は当然のことながら日本とドイツである。アメリカ本国では二〇〇四年にDVD化されているそうだが、我が国での発売は望み薄だ。

 よく「アメリカがくしゃみをすると日本は風邪を引く」と言うけれど、そんな自虐まじりにふざけるまでもなく、自由主義経済と民主主義の国では、アメリカで起きてきたこと・起きていることは全て起こる可能性があるし、現に起きていて表面化していないだけだったりする。この数々の危険なアメリカ映画に描かれている黒歴史のうち、まだ私たちの国には(かろうじて)刻まれていない要素は何だろう――と考えると、だんだん恐ろしくなってくる。

 ◇まちやま・ともひろ=1962年、東京都生まれ。映画評論家。現在は、米・カリフォルニア州在住。

 集英社インターナショナル 1200円

読売新聞
2016年11月20日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

  • このエントリーをはてなブックマークに追加