『乱流』 秋田浩之著

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乱流 米中日安全保障三国志

『乱流 米中日安全保障三国志』

著者
秋田 浩之 [著]
出版社
日本経済新聞出版社
ジャンル
社会科学/政治-含む国防軍事
ISBN
9784532169961
発売日
2016/09/05
価格
2,376円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『乱流』 秋田浩之著

[レビュアー] 村田晃嗣(国際政治学者・同志社大教授)

鎬削る米、中の戦略

 米大統領選挙でまさかのトランプ氏当選である。世界に激震が走った。日米同盟とて安閑としてはいられない。そうした中で本書を読むと、改めて国際政治の厳しさを痛感する。

 アメリカは今、共和党の「赤」と民主党の「青」に分断されているが、アジアも親米の「青」と親中の「赤」に引き裂かれるかもしれない。縄張りを囲い込もうとする中国のDNAに対して、覇権を維持しようとするアメリカのDNAが鎬(しのぎ)を削っていると、著者は分析している。

 アメリカの戦略家の中には、中国共産党の汚職情報を流すような「禁じ手」や、敵の急所を衝(つ)く「戦略競争策」が検討されているという。日本は中国から近い。中国の奇襲攻撃に備えて、横須賀の空母や嘉手納の戦闘機を後方に移動させる可能性すら、一部では論じられている。在日米軍の駐留を所与とした反基地運動の危うさがうかがえる。歴代の米政権は対中強硬姿勢で出発しながら、現実の壁にぶつかって対中融和姿勢に転じてきた。逆に、オバマ政権は対中融和路線で行き詰まり、対中強硬路線に転じたのである。

 中国では、習近平国家主席が権力基盤を強化しつつ、長期的な対米戦略を練っているという。2030年ごろには米中の国防予算が逆転するとの試算もある。そうした中で、中国は日米同盟離間のために、対日融和路線を取ろうとしている。だが、その中国も安定して成長を続けるかどうかは、定かでない。

 日米同盟の強化から、対中関与、日中協商、自主防衛という選択肢を、われわれは真剣に考えなければならない。だが、実際に日本がとれる選択の幅はそれほど広くはない。自主防衛をめざすなら、防衛費を2倍弱に増やさなければならないとの試算もある。非武装中立と自主防衛は、非現実の双子である。昨年の安保法制成立がいかに重要であったかを、改めて確認させる書物である。

 ◇あきた・ひろゆき=1965年生まれ。日本経済新聞社編集委員兼論説委員。著書に『暗流』がある。

 日本経済新聞出版社 2200円

読売新聞
2016年11月20日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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