日々のパフォーマンスを向上させる。脳を「ぼんやり」状態にする方法とは?

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「ぼんやり」が脳を整理する

『「ぼんやり」が脳を整理する』

著者
菅原 洋平 [著]
出版社
大和書房
ジャンル
社会科学/社会科学総記
ISBN
9784479795513
発売日
2016/10/20
価格
1,540円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

日々のパフォーマンスを向上させる。脳を「ぼんやり」状態にする方法とは?

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

「ぼんやり」が脳を整理する~科学的に証明された新常識』(菅原洋平著、大和書房)の著者は、脳のリハビリテーションを専門とする作業療法士。そんなバックグラウンドに基づき、「損傷された脳が回復する臨床現場での知見は、私たちの脳の力を最大限に発揮するために役立ちます」と主張しています。

まず注目すべきは、脳が訓練するほどに回復するなどということは決してないという事実。手が動かない、物忘れがひどいなどの課題を突破して、再び機能する、つまり、脳が回復する過程には、ある法則があるというのです。それは、次の3つ。

法則1. 気づきをつくる
法則2. ぼんやりする
法則3. 自分を外から見る
(「はじめに」より)

これが、人間の脳がひらめき、大きく前進するときに見られる共通点。単にこの順番で実行するだけですが、どれも正しくできていないと、ひらめきには至らないのだとか。ということは、この3つの法則をそれぞれうまく実行できれば、ひらめきを生み出すことができるということになります。

そして3つの法則を実行する力がそれぞれ向上すれば、毎日忙しいなかでも、ライフスタイルに合わせて効率的にひらめきを生み出していけると著者はいいます。本書ではそんな考え方を踏まえたうえで、「すぐに実践できる、ひらめきを生み出す法則」を紹介しているわけです。

きょうは、第3章「ただ『ぼんやり』するだけでは浮かばない」のなかから、「良いぼんやりをつくる方法」に焦点を当ててみたいと思います。

焦点を合わせない

現代の生活では、視界を刺激する広告が多いこともあり、ひとりでに焦点が合わせられてしまうもの。しかし、ひらめくためには、これをうまく避けることが大切だと著者はいいます。

そして、そのことを踏まえたうえで、試しに1分間、どこにも焦点を当てないようにしてみることを勧めてもいます。意図して焦点を当てないようにしていると、1分間がかなり長く感じられるはず。

目の焦点を当てないと、思考がストップして頭が働かなくなりますが、これが意図的にぼんやりしている状態なのだそうです。なお目の動きは、脳の働き、特に記憶の機能と深く関係しているのだとか。目でなにかをとらえたときには、その物体の輪郭を素早く点と線で結ぶように急速に眼球が動きます。これを「サッケード」と呼ぶそうですが、サッケードは物体を視覚的に捉えるだけでなく、記憶の機能に関係しているのだといいます。

たとえば、相手の顔を見て会話をしている最中に目線をはずすとします。サッケードによって目線がはずれると、頭のなかでは、それまで見ていたものの記憶がいったん消去されるのだそうです。サッケード後に記憶が消去されることで、脳は次の思考に移れるということ。脳は目の動きを使い、実行系ネットワークで注意を向ける対象を切り替え、その対象から得られる記憶も切り替えているというのです。

つまり意図的にぼんやりしたいのなら、このサッケード機能を使わないようにすればいいということ。目の焦点を当てないのは、慣れるまで難しいかもしれませんが、徐々に頭がすっきりする感覚を得られるようになるといいます。もしすっきりしたなら、それは内向きネットワークが脳内の情報を整理したということ。(148ページより)

予測可能な音だけを流す

次に紹介されているのは、耳の使い方を変えてぼんやりをつくってみる方法。耳の場合は、よく知っている音楽をリピートしてみるといいそうです。聴き慣れた音を繰り返し聴いていると、脳はその音に対する注意が低下していくというのです。

たとえばお経や木魚の音など、単調な音が繰り返されていると、外側への注意が続かなくなり、体の内側に注意が向けられ、いつしかぼんやりしていくものです。脳は単調すぎる音か、不可解でわけがわからない音を聴き続けていると、外向きネットワークの働きが低下するからなのだそうです。

でもそれは、お経や木魚の音だけではありません。たとえば上司から同じ話を何度も聞かされていたり、話し好きな友だちから全然知らない分野のうんちく話を聞かされたりしているとき、私たちの脳はぼんやりするもの。

そして話に集中できず、内側に注意が向いていき、話とは無関係な考えが流れ出てくるのだとか。なんとなく、わかるような気がします。そこで「よいぼんやり」を意図的につくるため、聴き慣れた音楽を繰り返しかけたり、カフェなどのざわついた場所に身を置いたりしてみることが大切だというのです。

ただし、テレビの音や館内放送など、注意を引きつける音があるとぼんやりは妨げられてしまうので注意が必要。(152ページより)

よく噛んで食べる

食事中にぼんやりして、なにかが思い浮かぶことがあります。そんなことからもわかるとおり、食べ物を噛むという行為は、ぼんやりに活用できるのだそうです。歩くことがそうであるように、噛むこともテンポのある運動。またガムを噛んでいると、セトロニンの分泌が促され、気持ちが落ち着くことも知られています。テンポよく規則的な運動をしているとき、脳ではセトロニンが増えるというのです。

1日3食の場合は、ぼんやりできるチャンスが3回あることになります。が、このチャンスは見逃されがち。たとえば、テレビをつけていたり、テーブルにスマホを置いて食事したりすると、せっかく噛む行為をしていても、実行系ネットワークがそちらに使われてしまうというのです。そこで、3食のうち1食でもよいので、メディアに触れずに食事できる時間を作るべきだと著者は提案しています。

加えて、かきこむような早食いも、十分に噛む行為を活用できないため禁物。早食いをする人は、箸やスプーンで1回に取る食べ物の量が多く、その手の動きが記憶されているために同じ食べ方をしてしまうのだそうです。そこで重要なのは、1回に取る食べ物の量を意識的に少なくしてみること。そうすれば、トータルの噛む量を自然に増やすことができるというわけです。こまめに口に運んで噛んでいれば、脳は「よいぼんやり」をスタートできるということ。(157ページより)

眠りはじめにまどろむ

著者によれば、もっとも良質なぼんやりが行われるのは睡眠中。このぼんやりは、睡眠の第2段階にあたり、眠りはじめて徐々に意識が失われるあたりで最初に訪れますが、第2段階が飛ばされてしまうことがあるのだそうです。

ちなみに「ベッドに入ったら一瞬で眠れる」というようなことは、あまりよいことではないのだといいます。人間は、大脳が大きく発達しすぎた動物。大脳の下に位置する脳幹が睡眠をスタートさせると、動物の場合はすみやかに眠りに入りますが、人間は大脳が静まって睡眠に入るまでに10分程度時間がかかるのだとか。

通常、目覚めているときにはβ波(14Hz以上)という脳波が出ていますが、目を閉じるとα波(8~13Hz)が出現。この段階では、半分起きていて半分寝ているような状態だといいます。さらにそのまま目を閉じていると、うとうとしてθ波(4~7Hz)が出現し、ときおり紡錘波が見られることに。この状態が「良質なぼんやり」だそうですが、慢性的に睡眠が不足していると、寝入りばなのまどろみがなく、すとんと深い睡眠に入ってしまうというのです。

睡眠不足は、常に脳が目覚めているレベルが低く、眠いのを、刺激を与えて無理やり起こしている状態。たとえば会議中、自分が話をしているときにはまったく眠くないのに、人が話し出すとすーっと意識が遠のいたりしますが、それと同じ状態。しかしこの状態では、寝入りばなに大切なぼんやりが失われてしまうというわけです。

そこで、あまりにも寝つきがよい人は、累積睡眠量を増やすことを考えるべきだと著者は主張しています。1日の睡眠の長さではなく、1週間や1カ月といったトータルの睡眠量が大切なのだという考え方。

1日15分早寝をすることを1カ月継続すれば、累積で7.5時間も睡眠を余分に稼げるということ。このように考えて、忙しいなかでもコツコツ睡眠を積み上げていくべきだという発想。累積睡眠量が増えていくと、寝入りばなに少し時間がかかるようになるそうです。モヤモヤとまどろみが訪れ、徐々に意識を失う、とても気持ちのよい体験が得られるそうです。(163ページより)

このように、とても実践的な内容。すぐに取り入れられることばかりなので、うまく「ぼんやり」したい方には格好の内容だといえます。

(印南敦史)

メディアジーン lifehacker
2016年11月29日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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