半年間、毎日「りんご」 食べ比べて分かった30種の魅力

レビュー

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ききりんご紀行

『ききりんご紀行』

著者
谷村, 志穂, 1962-
出版社
集英社
ISBN
9784087860788
価格
1,650円(税込)

書籍情報:openBD

実はリケジョの人気作家がリンゴ30種を食べ尽くす!

[レビュアー] 東えりか(書評家・HONZ副代表)

 最近では季節感がないと言われる青果店やスーパーの野菜売り場でも、果物は別だ。ブドウや梨、イチジクが終わりになる頃、温州みかんとりんごが幅を利かせるようになる。産地が注目されるみかんとは違い、りんごは品種を明記して売られることが多い。真っ赤なりんごは冬の象徴のようだ。

 小説家の谷村志穂は北海道大学農学部出身。いわゆるリケジョである。青森の地元新聞、東奥日報に「りんごをかじれば」というエッセイの連載を持った半年間、ほぼ毎日、いろいろな種類のりんごを食べ続け、その魅力と歴史、効能などについてまとめたのが本書である。利き酒ならぬ「ききりんご」。食べも食べたり、約三十種類というのにも驚かされる。というか、そんなにいろいろな品種が流通していたのか。

 私も信州の大学に行っていたので、りんごは身近なものだった。春の剪定や受粉作業のアルバイトもしたことがあるし、もらうことも多かった。部屋の中には、いつもひとつかふたつ、りんごが転がっていたような気がする。有難味も薄かった。

 だがこの本でりんごの実力を知ることになる。アップルパイには欠かせない紅玉と、普段、目にすることが多いふじには馴染みがあるが、ほかのほとんどの種類がわからない。

 谷村も最初はそうだったようだ。だが、リケジョは調べるのが得意だ。特に品種改良で父親、母親の系列から遺伝的な資質が見つかると、とても満足そうである。それが何世代にも亘って行われた改良の結果だと知れば、味わうのにも背筋が伸びる。

 農家の熱意も取材に拍車をかけている。TPPやら外国人観光客の増加やらの話題も相俟って、日本の農産物の将来について大いに考えさせられた。

 ただひとつ、残念なのは小さい頃に好きだったインドりんごが登場しないこと。あの品種は今どうなったのだろう。“あ〜ん、アップルペーン”と呟きながら思い出していた。

新潮社 週刊新潮
2016年12月1日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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