『ロレンスがいたアラビア 上・下』 スコット・アンダーソン著

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ロレンスがいたアラビア(上)

『ロレンスがいたアラビア(上)』

著者
スコット・アンダーソン [著]/山村 宜子 [訳]
出版社
白水社
ジャンル
歴史・地理/外国歴史
ISBN
9784560092439
発売日
2016/09/30
価格
3,024円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

ロレンスがいたアラビア(下)

『ロレンスがいたアラビア(下)』

著者
スコット・アンダーソン [著]/山村 宜子 [訳]
出版社
白水社
ジャンル
歴史・地理/外国歴史
ISBN
9784560092446
発売日
2016/09/30
価格
3,024円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『ロレンスがいたアラビア 上・下』 スコット・アンダーソン著

[レビュアー] 出口治明(ライフネット生命保険会長)

夢と命賭けた若者たち

 アラビアのロレンスはピーター・オトゥール主演の映画でつとに有名だ。しかし、ロレンスがいたアラビアには他にも同じような境遇の尖(とが)った若者がいたのだ。アメリカ人の情報員イェール、ドイツ人プリューファー(学者でスパイ)、ユダヤ人アーロンソン(パレスチナのスパイ組織の首謀者)。本書はこの4人の冒険家が織り成す、類いまれなノンフィクションである。

 物語は、英国国王に呼び出されたロレンスがナイト爵を辞退するところから幕を開ける。新たな映画が作れそうなシーンだ。4人の生い立ちはあまり幸せではない。オックスフォード大学の考古学者ロレンスはシリアの発掘現場で若者ダフウムと出会い、アラブ社会に惹(ひ)かれていく。

 やがて第一次世界大戦が始まり、ロレンスはカイロで軍務につく。オスマン朝のシリア総督ジェマルはとても魅力的な人物で、ロレンスを除く3人と密接に絡み合う。何しろ外国人は大事にされるのだ。ガリポリでオスマン軍に敗退した英国は、アラブの蜂起に期待してメッカの太守フサインに将来のアラブ国家を約束する。

 ロレンスはアラビアに派遣されてフサインの三男のファイサルにリーダーの資質を見出(みいだ)す。2人は盟友となり、以降、アラブの戦いを引っ張っていく。しかし英国はシリアに執着するフランスと密(ひそ)かにサイクス=ピコ協定を結ぶ。さらに英国はユダヤ人にもバルフォア宣言でユダヤ国家を約束する。3つの異なる約束により、今日の中東の混乱の種が蒔(ま)かれたのだ。ロレンスが母国の欺瞞(ぎまん)とアラブの大義の間で板挟みになり苦悶(くもん)を続けたのも頷(うなず)ける。歴史の奔流に抗(あらが)う4人の男たちの悲痛を想(おも)う。

 厳しい戦闘の連続の中で心身をすり減らしていったロレンスを待っていたのは、たった5分間の英仏首脳の会談でアラブ国家の夢が潰(つい)えるという現実だった。

 4人の若者が夢と命を賭けた時代を描き切った力作だ。山村宜子訳。

 ◇Scott Anderson=米国のジャーナリスト、小説家。長年にわたり世界の紛争地を取材してきた。

 白水社 各2800円

読売新聞
2016年11月27日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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