広い家よりも快適? 「狭い家」での暮らし方とは

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あえて選んだせまい家(正しく暮らすシリーズ)

『あえて選んだせまい家(正しく暮らすシリーズ)』

著者
加藤郷子 [著]
出版社
ワニブックス
ISBN
9784847095252
発売日
2016/12/07
価格
1,430円(税込)

広い家よりも快適? 「狭い家」での暮らし方とは

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

「”狭い家”と”広い家”なら、どちらがいい?」もしもそう問われたら、たいていの人は広い家を選ぶことでしょう。そんななか、あえて狭い家の魅力について考えようとしているのが、きょうご紹介する『あえて選んだせまい家』(加藤郷子著、ワニブックス)。

インテリア、料理など暮らし全般を専門分野とするフリーランスの編集者・ライターである著者が、狭い家で家族と心地よく暮らしている人たちを取材したもの。各人が、狭い家を選択した理由、家づくりについての考え方、工夫とアイデアなどを明かしています。

狭い家には、広い家にはない、いいところがいっぱい。
そんな狭い家のいいところを楽しみつつ
自分たちなりにいろいろ工夫しながら
心地よく、快適に暮らしている8家族の暮らしぶりを
この本ではご紹介していきます。(「はじめに」より)

きょうはそのなかから、47㎡のスペースに2人で暮らしているという著者自身の家をご紹介したいと思います。

購入価格を抑え、身軽さをキープ

著者がご主人とふたりで暮らしているのは、9年前に引っ越してきたという47平米のマンション。以前は約65平米の3LDKに住んでいたそうですが、広かったものの駅から遠く、電車の便もあまりよくなかったのだとか。

ライターは取材の機会も少なくないだけに、あちこち出歩くには不向きだということが大きな要因だったようです。また、仕事でいろいろな家を取材してきた結果、リノベーションにチャレンジしたいという思いも強くなっていったのだと当時を振り返ります。

そこで、賃貸ではなく購入するための物件を探しはじめたのだそうですが、広い家を選べば当然ながらローンの期間も長くなります。身軽に動くのが困難になる可能性があるわけで、そう考えると自然に予算も抑えめになり、最終的に狭い家が候補になっていったということ。

そして見つけたのが、今のマンションです。夫にも私にも便利な場所で、値段も無理をしなくていい範囲。窓からの景色に緑が多く、空も広々と抜けていて気持ちがいい。内装も建てられた当時のままだったので、リノベーションをするのにも気兼ねがなく、少し狭いかもと思いつつ、購入を決めました。(170ページより)

DATA
2人暮らし(40代後半の夫婦)
47㎡変則ワンルーム(LDK&寝室18畳+書斎2.2畳)
築21年(住んで9年)
集合住宅(持ち家)
東京都北区
駅徒歩5分
(168ページより)

すぐ片づけるし、掃除もラク。モノが増えすぎることもない

以前住んでいたところではついモノの処分を後回しにしていたとそうですが、現在の家に住んでからは明らかな変化があったといいます。たとえば段ボールが届けばその日のうちに中身を出し、畳むようになったというのです。些細なことのようですが、こうした小さな変化が、生活をより快適なものにしてくれるわけです。

狭くワンルームで段差も仕切りもないので、ロボット掃除機にまかせておけば掃除もあっという間。スペースが限られているわけですから、少しモノが増えたら、自然に整理をするようにもなったといいます。

それ以前にモノを買うときも「家に置けるかどうか」を意識するため、適度な制約になり、衝動買いも減少。「やっぱり狭い」と思いながら、がんばって整理しているくらいがちょうどいいのだと感じているとか。

著者はインテリアなどに関連した分野のライターという仕事柄、広くて収納スペースの多い家や、モノがたくさんあっても重荷と感じずに暮らしている家などもたくさん見てきたといいます。ただ、「自分には狭い家の制約が必要だっただけ」だというのです。たしかに、自分にとって必要なものについて考えることは、快適な生活を実現するうえで大切なのではないでしょうか?

この家のおかげで、こまめに片づけることによる快適さを知り、モノを増やさない身軽さを知りました。狭い家での暮らしは、私に新たな暮らしの習慣をくれたと思っています。(177ページより)

ワンルームだから広く感じ、行動をリンクさせられる

著者は現在の家に入居する前に、もとの間取りをすべて取り壊してリノベーションをし、ワンルームにしたのだそうです。最初からワンルームにするつもりだったわけではなかったものの、予算内で収めるための手段のひとつとして「引き戸をつけないワンルーム」という選択をしたということ。

予算的にそうせざるを得なかったということですが、実際に暮らしてみると、ワンルームの広々とした空間の便利さ、心地よさにすっかり魅了されたのだといいます。狭いとはいってもほぼ全体がワンルームなので、より広々と感じることができるわけです。

また、互いをリンクさせながら使えるというメリットも。ベッドとソファがくっついた形で置かれているため、ベッドでゴロゴロしている人と、リビングで本を読んでいる人が自然に会話できるというのです。さらにライターとしての仕事場とキッチンを徒歩3秒で移動できるため、仕事の合間の息抜きにキッチンに立つことも簡単。

また、もうひとつの魅力が”ついで片づけ””ついで掃除”がしやすいこと。たとえばダイニングの床のパンくずを掃除するついでに、寝室まで掃除機をかける。寝室のクローゼットからなにかを取り出すついでに、リビングに出しっぱなしになっているモノを片づける。それぞれが近く、丸見えだからこそ、自然に”ついで家事”をするようになったというのです。そのおかげで、無理せずに部屋を片づけられるということ。(182ページより)

瓶、缶、段ボールなどの分別ごみはどうしている?

狭い家だと、瓶、缶、段ボールなどの分別ごみの置き場所に困るのではないでしょうか? 著者も、それぞれにごみ箱を用意するとかなり場所を取ることを認めています。そこで、瓶、缶、ペットボトルは同じ箱のなかに入れているのだそうです。それを、マンションのごみ集積所で仕分けするわけです。

段ボールはよく届くので、玄関のクローゼット内にスペースをつくり、そこに入りきらなくなったら集積所へ持っていくようにしているそうです。

狭い家の暮らしに向いている人は?

とはいっても実際のところ、狭い家の暮らしに向いている人と、そうでない人がいるはず。はたして、どんな人が狭い家の暮らしに向いているのでしょうか? この問いに対しては、「適度にずぼらなところがあって、自分を甘やかしがちな人」だと著者は答えています。制約があることによって、片づけやモノの整理をやらざるを得なくなるので、結果的にがんばれるということです。

ただし、本当のずぼらだと、モノに押しつぶされてしまう可能性も。また、コレクタータイプの人も厳しいといいます。たしかに、狭い家に住むのであれば、置けるモノを吟味することは避けられないでしょう。

紹介されている家々から感じられるのは、「必要なものだけ」で暮らすことの意義。だからこそ本書を目にすれば、それがきわめて現代的なライフスタイルであることを実感できるでしょう。

(印南敦史)

メディアジーン lifehacker
2016年12月9日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

メディアジーン

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