“どんぶりさん”が来る! スマホ×民俗学の最恐ホラー

レビュー

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夜葬

『夜葬』

著者
最東, 対地, 1980-
出版社
KADOKAWA
ISBN
9784041049044
価格
660円(税込)

書籍情報:openBD

“どんぶりさん”が来る! スマホ×民俗学の最恐ホラー

[レビュアー] 大森望(翻訳家・評論家)

 どんぶりさん。

 なんとも間抜けでキュートな響きだが、実はこれ、顔を丼鉢状にまるくくり抜かれた、不気味すぎる死体のこと。栃木県の山奥の、ある閉ざされた集落(その名も鈍振村)では、人の顔は神様からの借りものと信じられているため、村人が死ぬと、顔をくり抜いて神様に返す(地蔵の顔にはめ込む)“夜葬”という風習がある。死体の顔の穴には、死出の旅のお供に、炊きたてのごはんが盛られる。

 ――というのが、本書の冒頭にある説明の要約。この圧倒的なB級ホラー感がすばらしい。そんな風習、あるわけないじゃん! とツッコまれそうだが、その出典は、コンビニで売ってるような、安手のザラ紙に印刷された、思いきりうさんくさい(もちろん架空の)ワンコイン本『最恐スポットナビ』――という設定だから手が込んでいる。

 当然、正統派の民俗学ホラーではなく、小説のメインは、スマホを活用したいかにも現代的な恐怖と、連続怪死事件の謎を追うサスペンス。後述するとおり、そっちの仕掛けも実によくできていて、アイデアのインパクトだけなら、鈴木光司『リング』以来の最高傑作。いますぐ映画にしてほしいというか、まだ映画になっていないのが信じられない。『邪願霊』『リング』『呪怨』『着信アリ』の系譜に連なる最新最恐のJホラー映画を小説化してみました、という趣なのである。

 あらためて紹介すると、本書は、第23回日本ホラー小説大賞の読者賞受賞作。「受賞の言葉」によると、著者は、昨年のホラー大賞を受賞した澤村伊智『ぼぎわんが、来る』を読んで応募を決意。一カ月でプロットを練り、その後わずか一カ月で一気に本作を書き上げたという。そのせいか、小説としては相当に荒っぽく(よく言えば映画的、悪く言えばシナリオから急いで書き起こしたノベライズっぽい)、大賞を逃した理由もそのへんにありそうだ。しかし、“ぼぎわん”に触発されてすぐさま“どんぶりさん”を書く見上げたエクスプロイテーション映画魂、キワモノ上等の精神が、本書に関してはプラスに作用している。選考委員の宮部みゆきさんは、選評で、「低予算のフェイク・ドキュメンタリーのような語り口こそがこの小説のキモなので、きれいに整えたらつまらなくなってしまう。このまんまで充分に魅力的で、ホラー的破壊力に満ちています」と書いているが、まさにそのとおり。チープなスリルを極限まで突き詰めた結果、最初のビデオ版『呪怨』に匹敵する低予算Jホラーならではの怖さを小説で再現することに成功している。

 一応の主人公格は、番組制作会社の若手女性社員・浅倉三緒。広島、栃木、埼玉で、顔をくり抜かれた遺体が三体あいついで見つかる事件が発生し、その特番チームに抜擢された彼女は、相棒の袋田巽とともに情報提供者との面談に赴く。

 彼女が少しずつ手がかりを集めて真相に迫ってゆく事件ものとしても面白いが、アイデア的に最強かつ最恐なのは、スマホのメッセージアプリと音声ナビ機能(要はLINEとGoogleマップか)を使った標的ロックオンシステム。“どんぶりさん”に狙われると(死亡フラグが立つと)、文字化けしたメッセージがスマホに届き、なぜかそれに“既読”がつく。さらに、ナビが勝手に起動して、「目的地が設定されました。目的地まで○○キロです」とアナウンス。そしてその距離がしだいに縮まってくる……。

 読み出したら止まらない面白さと、話のネタ度は保証する(宮部さんも書いてますが、読んだら絶対「こんな小説があって……」と誰かに話したくなる)。ただし、これを読んだあとは、スマホの自動通知が怖くて使えなくなるかもしれないので注意。

 著者の最東対地は一九八〇年、大阪府生まれ。電子書籍ではすでに何作かホラーの著作があるが、紙の書籍は本書がデビュー作となる。自身のサイトにスピンオフの『夜葬 病の章』を連載中。

 ◇角川ホラー文庫◇

KADOKAWA 本の旅人
2016年11月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

KADOKAWA

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