[本の森 ホラー・ミステリ]『虹を待つ彼女』逸木裕/『十二人の死にたい子どもたち』冲方丁/『黒面の狐』三津田信三

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『虹を待つ彼女』逸木裕/『十二人の死にたい子どもたち』冲方丁/『黒面の狐』三津田信三

[レビュアー] 村上貴史(書評家)

 まずは新人の作から。第三十六回横溝正史ミステリ大賞の大賞受賞作である逸木裕虹を待つ彼女』(角川書店)だ。

 自分が開発したネットワーク型のゲームを利用して“劇場型自殺”を果たした水科晴。その美貌のクリエイターの死から六年後、人工知能の研究者である工藤賢は、友人が経営する企業において水科晴を人工知能として甦らせる企画に取り組み始めた。だが晴の情報はあまりに少ない。一体彼女はどんな人物だったのか。調査にのめり込んでいく工藤に、辞めないと殺すという脅迫文が舞い込む……。

 人工知能にドローンなど、最先端のテクノロジーを重要な構成要素とした小説である。まずはそのガジェットが読者の目を引き、それらがきちんとリアルに作られていることで安心感を与える。その上で、だ。物語そのものは極めて人間くさくピュア。水科晴が何を考えてどんな行動をとり、そして何故彼女に関する情報が少ないのかを工藤の視点を通じて探っていくのだ。テクノロジーは晴や工藤の“属性”に過ぎず、本質ではないので、そう、万人が共感できるかたちに仕上がっている。晴という人物を巡る謎解きからどんでん返しまで、丹念に誠実に作られた一冊。新作が待ち遠しい新人の登場である。

 続いては冲方丁十二人の死にたい子どもたち』(文藝春秋)。著者にとって初の現代長編ミステリーという一冊である。

 廃業した病院に一人また一人と少年少女が集まる。十二人で安楽死する計画だった。だが、約束の場で十二人は、もう一人の少年を発見してしまう。ベッドに横たわる彼は先に自殺したのか、この自分たちのなかの誰かが殺したのか、それとも――。この異常事態に直面した彼等の心は揺れる。“全員一致”で物事を決めることを原則とする彼等は、このまま安楽死を進めるか否かの多数決に臨む……。

 廃院を密室状況にして繰り広げられる少年少女の議論が、繰り返される多数決という機構と組み合わさって極めてスリリングだ。安楽死の実施を問う議論のみならず、議論を支配しようとする駆け引きにおいても、彼等はクレバーであったり、あるいは“天然”であったりして、多数決がどう転ぶか先が読めない。しかもその過程で新たな事件も起きたりして油断ならない。何故一人余計だったかの真相に至るまで、終始緊張感に満ちた極上の一冊である。

 三津田信三黒面の狐』(文藝春秋)は、第二次大戦が終わって間もない頃、九州の炭鉱で起きた連続怪死事件を描いた一作。炭鉱を舞台に、その歴史や現状をふまえた人間ドラマを濃密に構築した上で、さらにそれを本格ミステリと結びつけている。ホラーと謎解きを融合した作品を得意とする著者の、新たなる一歩だ。

新潮社 小説新潮
2016年12月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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