家づくりで意識すべきなのは、イニシャルコストとランニングコストのどっち?

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家づくりで意識すべきなのは、イニシャルコストとランニングコストのどっち?

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

多くの場合、マイホーム購入は一生に一度の経験。しかも人生でいちばん高い買い物でもあるだけに、建てたあとで失敗に気づいて後悔したとしても、容易に建てなおすことは困難です。ところが現実的に、せっかくマイホームを手に入れたにもかかわらず「こんなはずじゃなかった」と後悔している人は決して少なくないのだといいます。

しかし、本来それはおかしなことであると主張するのは、『トクする家づくり 損する家づくり―――人生最大の買い物で後悔しないために 賢くマイホームを建てるコツ』(柿内和徳、川瀬太志著、ダイヤモンド社)の著者。

私たちは、経営コンサルタントとして長年にわたって住宅業界を担当するうち、こんな現実をおかしいと考えるようになり、ハイアス・アンド・カンパニー株式会社を設立しました。住宅業界の旧弊にとらわれず、「個人の消費者が、住宅を納得し、安心して取得(購入)、居住(運用)、住替(売却)できる環境をつくる」ことを目的に、事業に取り組んでいます。(「はじめに」より)

具体的な取り組みとしては、住宅会社向け、そして消費者向けにそれぞれ「本当にいい家の建て方」を発信、啓蒙、支援しているのだといいます。つまり本書も、そんな思いを軸として書かれたものだということ。もちろんターゲットは、これから家を建てたいと思っている消費者です。第1章「一生に一度の最大の買い物で失敗しないために」から、いくつかの要点を引き出してみます。

なぜ日本には「いい家」がほとんどないのか

国土交通省が発表している「平成27年度 住宅経済関連データ」には、滅失された(壊された)住宅の建築後平均年数の比較が載っているのだそうです。それによると、イギリスは80.6年で、アメリカは66.6年。しかし日本の住宅は、わずか32.1年にすぎないのだとか。

平成20年度の『国土交通白書』にも同じ比較が載っており、それとくらべて見ると、イギリスは77年の寿命だったものが10.6年延び、アメリカも11.6年延びているそうです。対して日本の延びは、わずか2年あまり。ちなみに以下のとおり、『国土交通白書』に記載されている解説はなかなかに的確です。

高い費用をかけて取得した住宅が利用される期間が短いということは、住む人にとって1年あたりの建築費相当の負担が大きくなり、かつ解体のコストも余計にかかることになり、それだけ住居費の負担が重くなることを意味している。このような負担を軽くするためにも、住宅を長寿命化し、長期にわたって使えるストック型社会へ転換することが求められる。(17ページより)

まさしくそのとおりではないでしょうか? 家の寿命が32年であるとすれば、一世代しか保たないばかりか、住宅ローンの標準的な返済期間である35年にも届かない短さ。つまり、ローンの支払いが終わらないうちに建て替えのタイミングがやってきてしまうわけです。そして子どもの世代が家を建てなおし、新しい家のローンを一から払いはじめることになるということ。これでは、多くの日本人が住宅ローンに追われて一生を終えることになるのも当然の話です。

ところで日本の住宅には、なぜ30年の寿命しかないのでしょうか? 著者によれば、その大きな理由は高度経済成長との関係にあるのだそうです。昭和40年代、都会に人が集まった結果、ベッドタウンが大都市近郊のあちこちに造成され、集合住宅や分譲住宅が整備されました。

その結果、都会に出てきた人たちの持ち家志向は一気に高まることに。将来も上がり続けるであろう給料に期待し、ローンを組んで住宅購入に踏み切る人が続出したわけです。住宅需要の喚起は、一層の経済拡大につながります。そのため家の寿命は短いほうが、当時の国の政策として都合がよかったということ。

そしてもうひとつの理由は、中古物件の売買数の少なさ。アメリカとイギリスでは圧倒的に中古物件の取引が多いのに、日本の住宅マーケットでは、常に新築物件が求められているというのです。

しかし、これから家を建てるなら、限りある資金を有効に使うためにも、住み心地に優れ、健康的な暮らしができ、なるべく長持ちする家を建てたほうがいいことは明らか。その上で、価値ある資産として持ち続けること、財産としていずれ我が子に譲り渡すこと、あるいは高値で売却することなども念頭に置くべきだと著者は主張しています。(17ページより)

間違った「金銭感覚」が、家の質を大きく下げている

家の選び方と同様に難しいのが、購入価格の問題。買う対象がなんであろうと、いいものを選んで安く買うのは基本的なこと。ただし家の購入が他の買い物と違うのは、買ったときに払うお金がすべてではないという点。だからこそ、普通の商品を買うような感覚で家を買ってはいけないのだという考え方です。

住宅の購入に関して、かかる費用は2種類あるそうです。まずはイニシャルコスト(初期費用)。頭金とローンを合わせた住宅そのものの代金や、不動産取得税などの税金や手数料を含め、購入時にかかるすべての費用を指すわけです。2つ目がランニングコスト。その家を購入したあとに発生する、ローンの金利、毎日の光熱費、修繕費など、住み続けることに伴う支払いのことです。

問題は、誰しも住宅購入を決めるときにはイニシャルコストにばかり目が行き、ランニングコストになかなか注意が向かないということ。たとえば2000万円の注文住宅と、1800万円の建て売りがあったとすると、1800万円のほうが魅力的に思えるもの。ところが機密性・断熱性は2000万円の注文住宅のほうが格段に優れているとしたら、長い目でみれば必ずしも1800万円の建て売りが有利だとは限らないわけです。

家の品質にばらつきがある、と普通は考えないものです。しかし品質の違いによって、ランニングコストには大きな差が出ます。冷暖房の効率次第で光熱費がかさみ、10年20年と住み続けるうち、ばかにならない差額が生じてきます。(24ページより)

建てるとき200万円余計にかけて省エネ性能を高めたとして、35年ローンで支払うとしたら、差額は月々5000円程度。それで節約できる光熱費のマイナス分を差し引けば、経済性においてはプラスマイナスの逆転が十分に考えられるのです。また、将来的な資源価格の変動も考えられます。にもかかわらず、表面的なイニシャルコストにしか目を向けられない人が少なくないというのです。

だからこそ著者は、家を買うときには、長く住み続けて毎日暮らすことを想像し、長期的な視点で見ることが大切だと強調しています。数千万円の買い物をするというのに、性能が不十分な家を建ててしまったり、いま10万円の出費を惜しんだ結果、将来健康を害してしまったりするなら、まさに本末転倒だということです。

ところが、「建築段階において安くしてかまわないところ」と、「費用をかけなければいけないところ」の違いを、間違えている人が現実的に多いというのです。それどころか、イニシャルコスト意識の高い人ほど、「安物買いの銭失い」になりがちなのだとか。

つまり、大切なのは客観的な視点を持つこと。イニシャルコストの差よりもランニングコストの差のほうがはるかに大きいのですから、長く住み続けることを考えてランニングコストに目を向け、これを安く抑える工夫が大切だということです。(23ページより)

「いい家」とは「資産価値の高い家」

さて、結局のところ「いい家」とはどんな家なのでしょうか? 考え方はいろいろあるとはいえ、著者は「資産価値の高い家」こそ「いい家」の定義だと考えているそうです。「資産価値の高い家」とは、「建てたときの価値と住み心地をそのまま維持できる家」。その条件は、次の3点だといいます。

1. 家の将来価値を決定する耐久性と耐震性があること
2. 家の現在価値を決定するデザインと性能があること
3. 家の将来価値を残すためのメンテナンス費用が抑えられること
(37ページより)

家づくりにかかるお金は、決して小さな金額とはいえません。しかし多くの場合、かけられる予算には上限があるもの。だからこそなるべくコストを抑えながら、品質が高く住み心地のいい家を追求する。そこに家づくりの醍醐味があり、それは現在の日本においても十分に可能だと著者は記しています。(36ページより)

家を建てる際には”知識”が必要とされるだけに、本書はきっと力になってくれるはず。家を建てたいと思っている人は、読んでおいたほうがよさそうです。

(印南敦史)

メディアジーン lifehacker
2016年12月16日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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