『昭和史跡散歩[東京篇]』 一坂太郎著

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昭和史跡散歩 東京篇 (イースト新書)

『昭和史跡散歩 東京篇 (イースト新書)』

著者
一坂太郎 [著]
出版社
イースト・プレス
ISBN
9784781650739
発売日
2016/10/08
価格
1,050円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『昭和史跡散歩[東京篇]』 一坂太郎著

[レビュアー] 安藤宏(国文学者・東京大教授)

 昭和も遠くなりにけり、というべきか。本書は東京の街角にひっそりとたたずむ史跡を通し、関東大震災以降の激動の歴史を辿(たど)る試みである。

 中心をなすのはやはり「戦争」にかかわる記憶だろう。言問(こととい)橋の未改修の親柱の一部には、今なお大空襲で焼け死んだ人々の痕跡が染みついている、という記述には思わずはっとさせられるし、評者自身、育った家の近くで東条英機が自殺をはかり、跡地に石碑が立っていることなど知るよしもなかった。池袋のサンシャインで行楽を楽しむ若者たちに、ここは「巣鴨プリズン」の跡地で隣の公園にはA級戦犯処刑の石碑があるのだよ、などと語りかけたら、あるいは悪趣味かもしれない。けれども今日の繁栄の裏には実はかつての傷痕が至る所に息づいている。日頃なじみ深い地に宿る「都市伝説」の数々に、読者はあらためて驚きを禁じ得ぬことだろう。

 歴史は客観的な実在としてあるのではない。何よりも日常に根付いた「記憶」として再生されて初めて意味を持つ。そのための手立てとして、重要なヒントを提供してくれる一書である。

 イースト新書 972円

読売新聞
2016年12月11日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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