直撃 本田圭佑 木崎伸也 著
[レビュアー] 夏野剛(慶応大学特別招聘教授・ドワンゴ社長)
◆スター選手の人間味
つくづく不思議な本である。本田圭佑の単なる語録かと思えば、五年以上にわたり本田を追いかけた著者の分析、解釈がきっちり入った解説書でもある。また問わず語りではなく、著者との生の対話録でもある。さらに本田を追い続ける著者の紀行録にもなっている。一般読者には想像もつかないヨーロッパのプロサッカー選手の日常、彼らを取り巻く環境が丁寧に描かれている。
しかしなんと言っても、この本の良さは本田圭佑という人間のおもしろさを余すところなく描き出しているところだ。一見派手に見えるスター選手の地味な積み重ねの日常と、誰もが知っているビッグイベントの際に本田が何を思い、どう感じていたかを描き出す。
本田は「ビッグマウス」と言われ、能弁にメッセージを発していた。本書はそのビッグマウスが聞かれなくなった二〇一〇年の南アフリカW杯直後からの姿を追う。メディアの前で語らなくなった本田。この心境の変化を、追いかけられるものと追いかけるものの微妙な関係性で解き明かしていく。本田は時に著者に質問する。「オレはどういうプレイヤーになったらいいと思いますか?」。取材される側と取材する側のある種の共闘感。そこにスターの苦悩や本音が見え隠れする。ベールに包まれた本田の本質をあぶり出した興味深い本である。
(文芸春秋 ・ 1404円)
<きざき・しんや> 1975年生まれ。スポーツライター。
◆もう1冊
マルティ・パラルナウ著『ペップ・グアルディオラ』(羽中田昌(はちゅうだまさし)ほか訳・東邦出版)。密着取材で名将の真の姿に迫る。