新井信昭 知財を制する者はビジネスを制する―「伊右衛門」VS.「コカ・コーラ」―

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レシピ公開「伊右衛門」と絶対秘密「コカ・コーラ」、どっちが賢い?

『レシピ公開「伊右衛門」と絶対秘密「コカ・コーラ」、どっちが賢い?』

著者
新井 信昭 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
社会科学/社会科学総記
ISBN
9784103506119
発売日
2016/12/22
価格
1,430円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

新井信昭 知財を制する者はビジネスを制する

[レビュアー] 新井信昭(弁理士・知財コミュニケーター)

「伊右衛門」VS.「コカ・コーラ」。

 いきなり書くと何のことだが分かりませんね。緑茶飲料と炭酸飲料。製造元が日本とアメリカ――違いを考えると色々と出てきますが、「伊右衛門」の作り方を誰でも簡単に見られることを知っていますか? それはサントリーの「特許公報」に書かれています。特許公報とは、特許を認められたアイデアの内容が詳しく書かれた特許庁が発行する公文書です。つまり「伊右衛門」の製法は特許を取っているのです。

「特許」と聞くと、多くの方は「アイデアを守るためのものじゃないのか?」と思われるでしょう。

 実は、その逆で守ってはもらえません。

 特許を出願すると、特許庁による審査があります。審査は数年かかるのが通例ですが、出願の時期から1年半が経過すると、特許取得の有無にかかわらず、特許庁のホームページ上にある「公開特許公報」に出願内容がすべて掲載される決まりになっているのを御存知でしょうか? インターネット上ということは、世界中の誰もが、いつでもどこでも読むことができることになるのです。

 さて、一方の「コカ・コーラ」。その作り方は「完全に秘密」とされています。レシピは厳重に管理されており、ほんの一握りの人間しかその内容について知らないそうです。

 世界最大のブランディング会社であるインターブランドが発表した2016年度の「グローバルブランド価値評価ランキング」によれば、コカ・コーラ社はアップル、グーグルに次いで第3位にランキングされました。コカ・コーラ社の創業は1886年。以来、130年もの間、ブランド力を高め続け、21世紀を代表する、最先端のIT企業に引けをとらない存在感を放っています。

 同じような企業はまだあります。例えば、ケンタッキー。あのフライドチキンが最初に作られたのは1939年です。この商品もすっかりおなじみですが、あのチキンと同じ味は誰にも作れません。老舗のうなぎ屋は、何十年も継ぎ足して守ってきた「秘伝のタレ」を持っています。行列ができるラーメン屋のスープの作り方は、そのほとんどが「門外不出」ですよね。こうした企業やお店が強さを維持できる理由、それは「レシピを特許出願せず、完全に秘密にしている」ことだと言えるでしょう。

 ここでようやく冒頭の文章に戻ります。

 製法を公開している「伊右衛門」と、絶対秘密にしている「コカ・コーラ」。皆さんはどちらが賢いと思いますか?

 この問いに答えるためには、私が提唱する「知財コミュニケーション力」が必要になります。「知財」とは「知的財産」を短くした言い方ですが、人間が頭で考えたアイデア(知財)を、お金を儲けるためのネタ(財産)にするために必要な能力を身につけて頂きたいと思って書いたのが拙著です。

 私はこれまで3000件以上の知財コンサルタントをこなし、1000件以上の特許や実用新案申請のお手伝いをしてきました。その経験から言えば、「特許」や「知財」と聞くと、何となく難しそうとか、自分の生活には関係ないと思っている方が大半ではないでしょうか。しかし、お金を儲けるためのアイデアは無尽蔵にあるわけで(勿論、違法なものは省きます)、使い方次第で大儲けすることもあれば、その逆もあり得るのがビジネスの世界です。せっかく生み出したアイデアを無駄にせず、巧く使って成功する。その秘訣を知って頂きたいのです。

 ヒト、モノ、カネがなくても簡単に実践でき、それでいて抜群の効果が期待できる手法を紹介してあります。中小企業の皆さんはじめ、企業の開発部門や法務部門の方、あるいは就職を控えた学生まで、幅広く読んで頂きたいと思います。

 知財を制する者はビジネスを制する――決して過言ではありません。ぜひ一度、目を通してください。

新潮社 波
2017年1月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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