<東北の本棚>社会復帰へ何が必要か

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こころの診療雑記

『こころの診療雑記』

著者
浅野弘毅 [著]
出版社
批評社
ジャンル
自然科学/医学・歯学・薬学
ISBN
9784826506496
発売日
2016/07/25
価格
1,980円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

<東北の本棚>社会復帰へ何が必要か

[レビュアー] 河北新報

 子どもから高齢者まで、心の病はさまざまな形で現れる。著者は精神科医として仙台市で45年間、精神に障害がある人々と向き合い、社会復帰して地域で暮らせるよう支援体制整備に力を注いできた。その折々に書き記し、各種会報や専門誌などに掲載した随想70本をまとめた。
 副題は「精神科医の聴心記」。「働き盛りとこころの健康」「脳の老化とこころの老化」など9章から成る。第1章「人生の危機とセラピー」では、家族や社会の病理に目を向け、乳幼児期から老年期に至るライフサイクルのどの段階にも精神的危機と課題が存在すると指摘する。
 「こころのクリニック」の章では、心の病という恐怖を体験し、役割や自己決定権を失っても、多くの人に支えられ、人生に新しい意味と目的を見いだすことがリカバリー(再生)だと述べる。東日本大震災からの再生にも触れ、心に刻まれた深い悲しみや傷跡をありのまま自らの経験として受け止めることが再出発になると記す。
 精神障害者による事件が世間の耳目を集めても、社会の偏見や対人関係のあつれきから、将来を悲観して自ら命を絶つ人が多いことは知られていない。地域で支えるとは何か。不条理に満ちた処遇の歴史を振り返り、精神科病院の開放化の流れや宮城県内の取り組みを紹介する。精神障害者が暮らしやすい町に地域を作り替えることを課題として提起する。
 著者は1946年大崎市生まれ。東北大医学部卒。仙台市デイケアセンターや仙台市立病院老人性痴呆疾患センターなどの開設に携わり、2008年から東北福祉大せんだんホスピタル院長を務める。
 批評社03(3813)6344=1944円。

河北新報
2016年11月13日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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