<東北の本棚>生命の輝き 慈しみの心

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<東北の本棚>生命の輝き 慈しみの心

[レビュアー] 河北新報

 <やわらかに山茶花の花つつみくる真綿のような立春の雪>。生命の輝きを表現した作品だ。<撃たれたる熊の母子が訴えくる、共存できぬかみな地球の子>。命の尊さ、慈しみの心を歌い上げた731首を収めた。
 著者は1946年栗原市生まれ。「地中海」同人。宮城県内で38年間、小学校教師を勤めた。
 <金色の光をまとう山ひとつマッターホルンの静かな孤高>。長女の夫がスイスにある素粒子関係の研究所に勤務しており、当地で孫が生まれた。著者もスイスへ。<降り注ぐ五月の光それよりもわれには温し背なのみどり児>。この世に生を受ける者があれば一方、旅立つ人もある。<見つめいる瞳にやがて諦めの影が宿りて目を閉じる母>。実母のいる栗原市の施設へ毎週通った。亡くなったのは東日本大震災発生間もなくで、94歳だった。
 大震災の時、自身は仙台の自宅にいた。建物被害は小さかったが<半日を並びて得たる一個のパン蝋の明かりに夫と分け合う>生活を余儀なくされた。テレビニュースは福島第1原発事故の状況を時々刻々と伝える。<放置され動く瓦礫と呼ばれつつ汚染の町をさまよう牛よ><言葉もたぬ家畜の哀しみ満ちる目が問いかけてくる人間の愚を>。半年後、夫と車で現場近くまで足を運んだ。
 「天地にあるすべてのもの、人と自然は密接につながっている。すべて生かされなければならない。願いは平和であり、命を全うできる世界の実現だ」と著者は言う。
 <うち続くテロに地震に核実験憂きこと連れゆけ節分の鬼>
 ながらみ書房03(3234)2926=3024円。

河北新報
2016年11月27日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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