<東北の本棚>不安克服の心構え説く

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<東北の本棚>不安克服の心構え説く

[レビュアー] 河北新報

 福島県三春町の臨済宗福聚寺住職で芥川賞作家の著者が、現代の死生観や臨終について講演した内容を基に書き下ろした。
 タイトルは松尾芭蕉の俳句<やがて死ぬ けしきはみえず 蝉(せみ)の声>から取った。蝉はその短い命を気にすることなく、死の直前まで懸命に鳴く。なんと見事な生き方、死に方か-。「知りようのない未来は憂えず、過ぎ去った過去は悔やまず」と諭し、「やがて死ぬ景色」をじっくり眺め、死への洞察を深めようと誘う。
 「終活」の名のもと、葬儀の商品化が進む現代。変わりゆく墓事情、エンディングノートの普及など、葬式や墓が個人化する現状に「私」へのこだわりを見て取る。古事記や万葉集をひもときながら「我々は日本人の根ともいえる大事なものを置き去りにしている気がしてなりません」と著者。
 「往生」「あの世」「天寿」など、独特の感性を生んだ日本人の死生観は資本主義の潮流にもまれ、大きく揺らいできたとの危機感を持つ。荘子の思想や良寛の輪廻(りんね)観などにも触れ、「私」から自由になる大切さを説く。
 東日本大震災後の社会情勢について考察を続ける著者。「震災と死」の章では、行方不明者が多く、遺体と対面できない遺族の悲しみ、幽霊の目撃談などに言及。祈りの尊さを教えられる。
 ターミナルケア(終末期医療)からがん治療薬の話まで、死の様相を幅広く伝え、不安を克服する心構えを示した。
 著者は1956年三春町生まれ。2001年「中陰の花」で芥川賞。11~12年、政府の東日本大震災復興構想会議委員を務めた。
 サンガ03(6273)2181=918円。

河北新報
2016年12月4日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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