<東北の本棚>賢治愛あふれる冒険譚

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

カムパネルラ

『カムパネルラ』

著者
山田正紀 [著]
出版社
東京創元社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784488018221
発売日
2016/10/20
価格
1,980円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

<東北の本棚>賢治愛あふれる冒険譚

[レビュアー] 河北新報

 宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」の世界観をそのままに、時空を超えた壮大なミステリーに再構築したSF長編だ。賢治の故郷である花巻を舞台に幻想的な冒険譚が繰り広げられる。
 主人公である16歳の「ぼく」は賢治の熱心な研究者だった母の散骨のために訪れた花巻で突如タイムスリップしてしまう。迷い込んだ先は賢治が亡くなる昭和8年9月21日の2日前。今なら賢治の死を阻止できるかもしれないと奔走する主人公だが、銀河鉄道の夜の登場人物カムパネルラを殺害した容疑者ジョバンニとして拘束され、厳しい取り調べを受ける。
 童話の登場人物を殺したと問い詰められても現実感のない主人公。しかし裏では思わぬ勢力がうごめいていた。タイムスリップ先の世界も史実と異なる動きを見せ始める。無実の罪を着せ、歴史を改変しようともくろむ黒幕は誰か。狙いは何なのか。主人公の戦いが幕を開ける。
 カムパネルラ殺害の手法やアリバイ立証といった謎解きに加え、仮想と現実が入り交じるSF的要素も盛りだくさん。銀河鉄道の夜が改稿ごとに内容が異なる点に着目し、ミステリーに仕立てる手法は斬新だ。ブルカニロ博士、青白いやせた大人、又三郎など賢治作品の人物が節目節目で登場し、全体を通して賢治へのオマージュにあふれている。読後に賢治作品も読み返したくなる。
 著者は1950年、名古屋市生まれ。74年のデビュー中編「神狩り」で星雲賞。82年「最後の敵」で日本SF大賞。2002年「ミステリ・オペラ」で日本推理作家協会賞と本格ミステリ大賞。
 東京創元社03(3268)8231=1944円。

河北新報
2016年12月11日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク