<東北の本棚>生きることの意味問う

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<東北の本棚>生きることの意味問う

[レビュアー] 河北新報

 「グリム童話の世界を求めたドイツの旅」「日常の風景」「山の詩」-3章31編の現代詩で構成する。舞台は異なるが、テーマを「生きることの意味」に据えた。
 著者は1944年秋田市生まれ。「密造者」同人。詩は中学、高校、大学と親しんだ。高校教員を37年間勤めた後、短大の准教授に。児童文学を担当したのをきっかけに昔話の世界に引かれ、再び詩を書く機会を与えてくれた。
 グリム童話の舞台を訪ねてドイツへ。「ハーメルンの笛吹き男」の町へ着く。<町の人々が礼拝にやってくる/讃美歌 主の祈り/世界の平和と安全は/自分たちが守らなければならない>。東日本大震災、福島原発事故発生から2年半後のこと。礼拝後、牧師が手を差し伸べてくれた。
 ある日、短大の庭で、降り続く雨の中を蝉が飛んでいるのを見た。<生きる とは もともと/このように 負を撥ねのけて/いくこと なのかもしれない>と感じた。
 <あおぞらに 春蝉のこえ/山の牧場を 吹きわたる 風/草原は まるで 海>。詩のトーンはがらりと変わる。山の仲間と八幡平市の七時雨山に登った時の作品だ。七時雨山は好きな山で、詩集の題もここに由来する。爽やかな高原の風に「生」を感じた。
 書肆えん018(863)2681=2160円。

河北新報
2016年12月25日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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