星野源、本まで売れる理由は〈ベストセラー街道をゆく!〉

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書籍情報:openBD

「童貞役」率高し星野源 本まで売れる理由とは

[レビュアー] 倉本さおり(書評家、ライター)

「ムズキュン」なる流行語を生み出したドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』での好演に加え、自身が手掛けた主題歌『恋』も大ヒット、お茶の間レベルでその名が浸透した星野源。ミュージシャンにして俳優、そして文筆家でもある彼には複数の著作があるが、『逃げ恥』ブームで勢いが再燃し、各書店の売上ランキングをこぞって賑わせている。今年3月に刊行予定の最新エッセイ『いのちの車窓から』は予約開始初日でAmazon総合ランキング1位を獲得、『そして生活はつづく』『働く男』は累計30万部突破。くも膜下出血に倒れて復活するまでの日々を綴った『蘇える変態』は12刷13万部。もはや異例の売れ行きと呼べるだろう。

 草食男子。癒し系。自然体。「非イケメン」と声高に称される一方、世の女性から絶大な人気を誇るその存在に、メディアはいかにもキャッチーでわかりやすい定義を施そうと試みてきたが、どれも今ひとつハマっていない。むしろ、そうした使い勝手の良い鋳型からこぼれ落ちてしまう部分こそ星野源の特徴なのだということが、彼の文章によって浮かび上がってくる。

 例えば、星野源を語る上で欠かせないのが下ネタ要素。『逃げ恥』がまさにそうだったように、俳優としての彼は童貞役のあてがわれ率が異常に高いのだが、無論そんなことはない。彼の猥談はエロ対象への敬意とユーモアを忘れない超絶テクニックの賜物だ。その合間に唐突に挿入(あるいは放出)される「うんこ」の話。自意識のペーソスをこんなにくだらなくて優しい形で提示できる書き手がいるとは……! だが、そうこうしているうちに景色がシリアスに染まり、哲学的な問いが投げかけられ、でも結局は鼻水べたべたの状態で笑わされてしまう。

〈物事を拡大して日常を改めて制作する作業〉―『そして生活はつづく』の文庫版あとがきに記されている言葉だ。つまり星野源の魅力の本質は、日常を「装う」ことではなく、徹底的に「解釈する」ことのほうにある。だからこそ彼のテクストの中毒者が続出するのである。

新潮社 週刊新潮
2017年1月12日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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