<東北の本棚>原発被災地の復興願う

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片翅 : 句集

『片翅 : 句集』

著者
高野, ムツオ, 1947-
出版社
邑書林
ISBN
9784897098227
価格
2,420円(税込)

書籍情報:openBD

<東北の本棚>原発被災地の復興願う

[レビュアー] 河北新報

 表題は「かたはね」と読む。<福島は蝶の片翅霜の夜>に由来する。福島県を地図の上から見ると、形がチョウが舞っているように見える。東半分が「片翅」、つまり福島第1原発事故の被災地だ。人が住めるようになるのか分からない。先は見えないが、「霜の夜」を経てよみがえる蝶(ちょう)がいるかもしれない。その姿にたとえた。
 著者は1947年栗原市生まれ、多賀城市在住。河北俳壇選者。小熊座主宰。東日本大震災の津波被災地や自らの震災体験を詠んだ「萬の翅」で2014年蛇笏賞受賞。今回はそれ以後、原発事故をテーマに詠んだ作品を中心に395句を収めた。
 南相馬市から浪江町へ、原発の事故現場から20キロ圏内を2度訪ねた。<夏草に餓死せし牛の眼が光る><夏雲が供花か棄牛の頭蓋骨>。避難せず、牛を生かし続けようと頑張っている牧場がある。一方、周辺で白骨化した牛も見た。悲惨な光景であった。<請戸小夏日を返し帰還待つ>。浪江の小学校跡地に立つ。著者は中学教師を長く勤めた。子どもたちが帰ってくるのはいつになるのか、思いを巡らした。
 <みちのくの闇の千年福寿草>。これまで東北の風土をベースにした作品を数多く作ってきた。今回はこれに加えて、ベトナムを訪ね戦跡を歩いて詠んだ<メコン川永久に濁りて永久の夏>や、支倉常長の関連でスペインを講演旅行した際に作った<大皿のパエリア太陽一個分>など、海外での作品を幾つか収めている。
 「水晶の原石のように、言葉は粗くても深く透明度のある句を作っていきたい」と著者は語る。
 邑書林06(6423)7819=2376円。

河北新報
2017年1月15日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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