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荒野を行く凄腕たち 心躍るウエスタン!
[レビュアー] 若林踏(書評家)
あの名作映画「荒野の七人」を原案とする西部劇「マグニフィセント・セブン」が公開間近だ。久々の本格的な西部劇映画に興奮が止まりません。というわけで今回は心躍るウエスタン小説をご紹介する。
まずは逢坂剛『アリゾナ無宿』。日本小説界きっての西部劇愛好家である著者が挑んだ、西部の荒野を行く賞金稼ぎたちの物語だ。
舞台は一八七五年のアリゾナ。幼いころに元南軍のゲリラに両親を殺され、インディアンの一族に育てられた過去を持つ少女マニータは、町で二人の男と出会う。一人はトム・B・ストーンという、凄腕のガンマンにして名うての賞金稼ぎ。そしてもう一人はサグワロという名の、ハコダテから流れ着いた記憶喪失のサムライ。マニータはある事件を契機に本名であるジェニファを名乗り、ストーン、サグワロと共に賞金稼ぎのチームを組むことになる。
乾いた世界観を引き出すクールな文体に、銃弾と剣技が飛び交う熱いアクション。古き良き西部劇への最大限のリスペクトを込めながら、個性的で親しみやすいキャラクター達によって西部劇ファンならずとも楽しめる娯楽小説に仕上がっている。特にミステリアスなサムライ、サグワロが繰り出す剣術と忍術のような針技からは目が離せない。
カウボーイの世界でサムライが大暴れする、と聞いて映画「レッド・サン」における三船敏郎の姿を思い浮かべた人もいるのでは。
近年刊行された翻訳小説のなかでは、パトリック・デウィット『シスターズ・ブラザーズ』(茂木健訳、創元推理文庫)が出色の出来栄え。冷血な兄と、普段は温厚だけどキレると怖い弟の殺し屋兄弟コンビを描いた相棒小説であり、非情さとユーモア、そして哀切が混然一体となった不思議な作品だ。
また、少々変わり種だが東山彰良『ブラックライダー』(上下巻、新潮文庫)もお勧め。こちらは十九世紀ではなく、大災害によって荒廃した架空のアメリカが舞台だが、主人公の一人である保安官が悪党を追い荒野をさ迷う章は、紛れもなく西部劇の醍醐味に満ちている。