宮部みゆきのこの短篇がスゴイ! その1――作家生活30周年記念・特別編

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我らが隣人の犯罪

『我らが隣人の犯罪』

著者
宮部, みゆき, 1960-
出版社
文芸春秋
ISBN
9784167549015
価格
418円(税込)

書籍情報:openBD

宮部みゆきのこの短篇がスゴイ! その1――作家生活30周年記念・特別編

[レビュアー] 佐藤誠一郎(編集者)

 今年、作家の宮部みゆきさんが、作家生活30周年を迎えられます。この記念すべきメモリアルイヤーに、宮部みゆきさんの単行本未収録エッセイやインタビュー、対談などを、年間を通じて掲載していきます。今回は特別編として新潮社で宮部みゆきさんを担当して25年の編集者で、新潮講座の人気講師でもある佐藤誠一郎が数ある名短編の中から選りすぐりの作品を紹介します。

 ***

 デビュー当時から、宮部さんには小説の神様が降りまくりでした。私こと還暦過ぎの編集者が、そのことを今日から月にいちど証明していきたいと思います。有名な長編小説は皆さんよく御存じなので、このコーナーで紹介するのはすべて短編。そのほうが少しでも「耳より情報」っぽいんじゃないかと考えてのことです。

 さてその第一回めに取り上げたのは「サボテンの花」。短編集『我らが隣人の犯罪』(文春文庫)の中の一編で、宮部さん29歳のときの作品です。

 劇団キャラメルボックスが舞台化したので、そちらの方でご存じの方も多いのではないでしょうか。劇団を主宰されている成井豊さんも、短編ではイチオシと仰っていました。

 ある中学校の卒業研究として、サボテンのテレパシー能力をテーマにしたいという生徒たちが現れた。学校側は、案の定、若干名を除いて猛反対。ある意味とうぜんかも知れませんが、生徒たちは、秘密の「計画」を持って一致団結していた。その「計画」のために、ある人物が「スカウト」されるんですが、その先は読んでのお楽しみ……。

 ところで、卒業研究というと何かを連想しませんか? そうです。『ソロモンの偽証』ですね。あの作品で行われた学校裁判も卒業制作の一環でした。藤野涼子の周到な作戦が功を奏して勝ち取られたものだったことはご承知のとおりです。

 また『ソロモンの偽証』では、裁判の構成要員をスカウトする物語が盛り込まれ、何やら映画「七人の侍」めいていてとても印象的でしたが、「サボテンの花」でもこのモチーフが、また別の形で登場します。大長編と短編の違いだけでなくテーマからして全く違う二つの作品ですが、「サボテンの花」を読むと、心温まる読後感とともに、この共通点に気づいて、皆さん得した気分になれるはずですよ!

Book Bang編集部
2017年2月2日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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