日本産ゴミムシダマシ大図鑑 秋田勝己、益本仁雄 著
[レビュアー] 池田清彦(早稲田大学教授)
◆愛好家の情熱の結晶
ゴミムシダマシと言われて、おぼろげながらでも姿形を思い浮かべられる人は、かなりの虫好きであろう。ほとんどは数ミリから一センチ前後の大きさで、昆虫の中でもマイナーなグループと言ってよい。その大図鑑が出版された。移入種、偶産種を含め、日本産のすべての既知種と、いくつかの新種、未記載種四百六十四種を網羅して、図示・解説したコンプリートな図鑑である。
この大図鑑を作るのに、どれだけのエネルギーがつぎ込まれたかは、掲載されている多くの生態写真や、見事に整形された標本の写真を見ればわかる。著者は二人だが、その背後に多くのアマチュア愛好家の研究成果があったのは言うまでもない。日本のアマチュア昆虫学の水準の高さを示して余りある本だ。
発行元は、むし社という昆虫専門の出版社で、本書は大図鑑シリーズの九巻目である。どの巻も昆虫愛好家の情熱が詰まったもので、学術的にも大変優れている。こういった本を次々に出せる国は、日本だけだと思う。世界に誇るべき日本の文化と言っても過言ではない。
こんなゴミのような虫に人生を懸けて何が楽しいのだろうと思う人は、人生にはお金よりも大切なものがあることが分かっていない。巻頭には養老孟司が「虫の天才二人」という推薦文を寄せている。きっと羨(うらや)ましかったに違いない。
(むし社・1万9440円)
<あきた・かつみ> 津市の小学校教諭。
<ますもと・きみお> 大妻女子大教授。
◆もう1冊
むし社の昆虫大図鑑シリーズは他に『日本の迷蝶大図鑑』など。