【聞きたい。】飯野高広さん 『紳士服を嗜む 身体と心に合う一着を選ぶ』

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【聞きたい。】飯野高広さん 『紳士服を嗜む 身体と心に合う一着を選ぶ』

[文] 産経新聞社


服飾ジャーナリスト・飯野高広さん

 ■服選びの基礎知識解説に徹する

 「そのスーツは○○さんの店の仕立てですね」。インタビューを始めるなり、記者はそう指摘された。目立つディテールを盛り込むことを極力避けた地味なグレーのスーツを目にして、テーラーごとに異なる独自の作風を瞬時に見抜く。服飾ジャーナリストとして、並大抵ではない眼力だ。

 若い頃からの着道楽で、製鉄会社の社員から服飾評論の世界に転じた。世にメンズファッションの本は数多いが、着こなしやコーディネートを具体的に例示したハウツー本や、ブランド品の写真を並べて“傑作”“マストアイテム”などの言葉であおるカタログ的ファッション誌があふれる中、本書は異彩を放つ。

 3段組でみっちり300ページ以上にわたり文字や図版を詰め込んだ濃密な構成。英語表題「An Encyclopedia of Men’s Suit」の通り、人体の骨格解説から始まり、スーツの構造や生地の種類、色の合わせ方、礼装時の約束事や20世紀初頭以来のスーツの歴史まで、圧巻の情報量だ。

 印象的なのは個別のブランド名を出さず、また具体的な服装指南も避けて、あくまで服選びの基礎となる知識の解説に徹していること。「こうすればいい、という即効薬のような本にはしたくなかった。類書に比べ歯ごたえのある内容かもしれないが、体型も職業も趣味も異なる個々のスーツ着用者が、自分に適した服を選ぶヒントになれば」

 近年はビジネスのカジュアル化で着用者が減りつつあるスーツだが、大都市では特色ある若手テーラーも次々と現われ、長らく衰退する一方だったオーダーへの回帰もみられる。「本当に好きな人が今でもあえてスーツを着るとなると、より個人の嗜好(しこう)が強くなり、百貨店の既製品では満足できずオーダーに行く。スーツは今後、まさに嗜む、という存在になっていくのではないか」(朝日新聞出版・1800円+税)

 磨井慎吾

  ◇

【プロフィル】飯野高広

 いいの・たかひろ 昭和42年、東京都生まれ。大手鉄鋼メーカー勤務を経て平成14年独立。生活総合情報サイト「オールアバウト」で紳士靴のガイドを務めるほか、専門学校で近現代服飾史の授業も持つ。著書に『紳士靴を嗜む』。

産経新聞
2017年1月22日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

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