<東北の本棚>知恵持ち寄り希望描く

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<東北の本棚>知恵持ち寄り希望描く

[レビュアー] 河北新報

 本書の副題は「333人による一人称の復興史」。東日本大震災の後、日本建築家協会東北支部宮城地域会が2013~16年の4年にわたって仙台市で催した討論会の発言を記録した。テーマは「被災地にとって復興とは何か? 当事者の声をどう受け止め、共に知恵を出し合えるか?」。
 宮城地域会が震災直後から支援に入った石巻市などの被災者を囲んで、彼らと協働する建築家、地元自治体や宮城県、国で復興に関わる行政マン、大学の研究者や企業人、震災報道に携わる記者らが参加した。
 「専門家」を集めた空疎な復興シンポジウムとは異なる。行政主導の復興事業の適否を誰よりも知る当事者の声に始まり、参加者が対等な立場で毎年、丸1日掛かりの議論を続けた。
 復興事業の欠陥、新しい住まいのあり方、中心市街地の再建、半島部の共同体と生業、福祉の再生、震災の伝承、行政・法律と現場の乖離(かいり)-。多様な論点を三つの円卓で掘り下げる形で、解決へ知恵を絞った。
 過酷な津波被害に遭った石巻市北上町で住民と建築家が協働し設計した移転地づくりなど、4年にわたる現地の変化と絶えざる課題、試行錯誤の歩みも一人一人の生の声で記録された。
 東日本大震災後に流布した言葉に、村井嘉浩同県知事らが好んで発する「創造的復興」がある。国や行政が上からの目線で企画、主導してきた「被災地造り替え」の事業群だ。本書が伝える「復興」はまるで違う。
 復興とは霞が関の予算とゼネコンの物量でなされるものでなく、政府の得点稼ぎのスローガンでもない。「古里でどう生き直せるか?」を自問する住民と、その思いをくんで知恵を持ち寄る人々によって手作りされる、希望の形なのだ。
 鹿島出版会03(6202)5200=1296円。

河北新報
2017年1月22日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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